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高校生
「あら、今夜雪ですって」
そう、母が視線をテレビに向けたまま、誰に対してでもなく言った。父が新聞から顔を上げる。迷惑そうに、眉を寄せていた。
「帰る時には降らないといいが……」
「本当にねぇ……。遅くなりそうだったら、連絡ちょうだい」
「分かってる」
父はそう言って、新聞を畳んだ。どうやら出勤するようで。母は父の素っ気ない態度に不満げだったが、鞄を持つなど、甲斐甲斐しく世話をする。
「行ってらっしゃい」
「行ってくる」
そう言って、父はリビングを出て行った。やがて、ドアの開閉音。
「由良もはやく準備しなさいよ。もう、受験生なんだから」
「……うん」
母の言葉に由良は頷いて、朝食をかきこみ、リビングを出た。まずは、着替え。
自室で高校の制服を着ながら、窓の外を見た。どんよりとした雲が空を覆っており、今にも雨か雪かが、降ってきそう。
「雪……」
由良は知らず知らずのうちに、笑みを浮かべた。今夜が、とても楽しみで……。
だけど、そろそろ決めなきゃ。
すっと、由良の顔から表情が剥がれ落ちた。
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