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雪の夜の招待客
雪が重たく、激しく降っていた。
どこまで逃げて来たのだろうか。
家の灯りどころか街灯さえない。
背丈の高い木々の枝が幾重にも重なるように連ね立っている。
深夜だと言うのに、雪明かりが青白く空に反射して明るく照らしている。それが余計に気持ちまで凍えさせた。
その中を俺は、とにかく必死になって走った。
骨まで刺すような寒さに身を縮めながら、よろけそうになる足を引きずり走る。
靴底から素足に直に伝わってくる凍てつくような冷たさで足の感覚もなくなっていくようだった。
確か、今朝聴いたラジオでは10年ぶりの大雪とか言っていたが
こんなに雪が積もっているとは思わなかった。
着の身着のままで走り逃げたのは無謀だったか。
しかし、そうするしかなかった。もう後戻りはできない。
俺はこのままここで凍え死んでしまうのか……。
少しの間だけでもこの寒さを堪え忍ぶ場所があれば。
気弱な気持ちを振り払うようにとにかく走った。
「家?」
降り注ぐ雪の視界の間から一軒の家が顔を出した。
「助かった!」
心が弾んだ。
俺は、その家の方向へ急いで駆けた。心なしか足取りも軽くなっていた。
その家は、一階建ての立派な佇まいだった。バーベキューなどができるほどの広さのデッキもある。自然とここに住んでみたいと思った。
灯りは点いていない。
茂みの影に隠れて窓の奥を目を凝らして覗いて見たが、人影なくシンと静まりかえっている。
駐車場らしき広場には車もない。
周辺にはこの家だけしかないというところをみると、ここは別荘なのかもしれないと思った。
しかし、もし、誰かいても――
……殺(や)ればいい。
「あのー すみません」
黒光りに佇む玄関のドアを叩いてみた。しばらく待ってみたが応答がない。
「道に迷ってしまって…… どうかすみません」
もう一度、ドアを叩いた。
反応なく、物音ひとつしない。
助かった。
やっぱりここは別荘で、今は誰もいないらしい。
しばらくここで身を隠せる。
俺は、辺りを見回し、手頃な石を探した。
家を一周しながら中を伺い歩いた。裏口に回ると、丁度いい高さの窓があった。手慣れた方法で窓ガラスを破壊し、手を差し込みクレセント鍵を開けると、中へと入った。
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