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家に帰ってきた俺を待っていたのは、姉だった。
「また喧嘩したんだって?聞いたよ。瞬(しゅん)は喧嘩強いから……相手の方が心配だわ……。」
少し困ったような表情で、姉がため息を吐く。
「別に……少しくらい痛い目に遭った方がいいんだ、あいつは。」
俺は、姉の顔を見ないように言い放つ。
「ダメ。人を傷つけるのは、弱い人間のすることよ。本当に強い人間は、人を『守る』もの。……瞬が守ってくれるなら、姉さん安心なんだけどな。」
ふふっ……と今度は笑みを浮かべ、俺に言う。
「守ろうとした結果……こうなったんだよ。」
その優しい表情に、少しだけ苛立った俺が、聞こえないように呟く。
「……?どうしたの?」
そんな俺の苛立ちを察したのか、姉が俺の顔に手を当てる。
「……うん。大きな怪我はないみたいね。」
その、あたたかい掌が、少しだけ擦り傷にしみる。
ーーーお前、姉さんと一緒じゃ何処に行っても面白くないだろ?---
ーーーそうだよな。お前の姉さん……---
「そろそろ寝るぞ。」
俺は、思い出すまいと頭を振り、姉の車椅子に手をかける。
「うん……。自分で行けるよ、部屋にくらい。」
「いいから。……俺のこと、待ってたんだろ?」
俺は、姉の車椅子を押す。
姉の部屋に着くと、姉をひょいっと抱き上げ、ベッドに寝かせた。
「おやすみ。」
「……ありがと、瞬。」
姉は俺に向かって手を伸ばす。
俺は、そっと、その方向に顔を近づける。
「……ちゃんと、寝ろよ」
姉は手探りで俺の頬を探すと、そっと両手で包み込んだ。
「……うん。おやすみ。」
ーーーお前の姉さん、歩けないし、目も見えないもんな。---
ーーー生きてて、楽しい事あるんかねーーー
姉の部屋を出た俺が、今日の出来事を思い出す。
「……姉さん、あんたのこと、馬鹿にされたからだよ……」
モヤモヤした気持ちのまま、俺は部屋に戻った。
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