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姉は、将来有望なバイオリニスト、になるはずだった。
温和な性格で、容姿もそこそこで。
そんな姉がバイオリンを弾く姿は自然と注目を集めた。
高校を卒業したら、海外で腕を磨く。
そんなプランも立っていた。
『普通の女性として育ち、結婚してほしい』
夢よりも安心を選んだ両親とは、何日も家族会議を開いた。
結果、両親は根負け。
姉は、熱意と情熱で自分の夢を掴みかけた。
ひいき目なしに。
俺は、姉が成功して帰ってくることを確信していた。
ひたむきで、前向きで、情熱的な姉が、そう簡単に挫折するとは思えなかったから。
「2年、我慢できる?寂しくない?」
「バーカ、俺だって17だ。いちいち寂しがっていられるか」
強がって見せた俺。
本当は少しだけ、姉が遠くに行くのが寂しかった。
ずっと、側で暮らしてきたから。
そんな俺の様子に気づいたのか、姉が私を不意に抱きしめる。
「……少しだけ、待ってて。」
「……おう。」
大人になって、いい香りがして……
それでも、昔と変わらない、優しい姉の抱擁。
それで、俺は少しだけ、安心した。
『姉は、必ず帰ってくる』と。
しかし。
そんな俺の確信は、思わぬ形で実現した。
空港に向かった、父と姉の車が事故に遭った。
居眠り運転の車が、父と姉の停まる車の車列に突っ込んだ。
幸い、父に怪我はなかった。
姉も、一命を取り留めた。
そう、『一命を取り留めた』のだ。
姉は、命と引き換えに、視力と下半身の感覚を失った。
激しく風が吹き、冷たく雪が降り続ける、そんな雪の夜のことだった。
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