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「姉ちゃん……ムカつかねぇのかよ、舌打ちとかされて。ムカつくなら言ってくれ。俺が話つけてやる。」
その日も、脇を通り抜けた青年が、不快そうに舌打ちをしていった。
俺が呼び留めて説教してやろうとしたその時、姉は優しく首を振った。
「もしかしたら、あの人も急いでいたかもしれないよ?彼女さんが大けがしたのかも。お母さんが倒れたのかも……。私は車椅子だから見てわかるけど、車椅子じゃなくても、大変な人はいるよ。それに、舌打ちされて当然。迷惑、かけちゃってるもんね。でもね……。」
俺より辛い思いをしているのは、間違いなく姉だ。
目も見えない、歩くこともできない。
自分のせいじゃないのに、舌打ちされて……。
文句を言いに行くことも出来ない。
それなのに……
「でもね、瞬、あなたがちゃんと守ってくれるから。段差では優しく車椅子持ち上げてくれるし、坂道では声をかけてくれる。瞬と一緒なら私は安心だよ。」
それなのに、どうして姉は、こう笑っていられるのだろう。
どうして笑顔でいられるのだろう。
「そのくらい……いつでもするから。」
俺は、悔しくて、悔しくてそんなことしか言えなかった。
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