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それから数日たった、日曜の夕方のこと。
リビングでテレビを見ていると、姉が俺に言った。
「ねぇ……海、連れて行ってくれない?」
突然の姉の願い。
俺は、ただ戸惑った。
「海……?電車使うし、結構距離あるし……何より、寒いぞ?」
面倒だから言ったわけじゃない。
これまでの介助の経験から、近くの海に行くまでの経路と危険な個所を、俺なりに想定した結果だった。
いつの間にか、俺の思考回路は姉の介助ありきになっていた。
「だめ……かな?」
少しだけ、しょんぼりした表情を見せた姉。
「……行くか。」
そんな姉の表情を見るのが、俺は耐えられなかった。
母に頼み、姉にしっかり厚着をさせ、財布に十分な小遣いを詰めて。
俺は、姉の車椅子を押しながら、海へと向かう。
「久しぶりの、遠出だね。」
にこりと笑う姉。
「デッケェ荷物、運んでな。」
そんな姉に、俺は笑い返す。
そういえば、久しぶりだ。
姉が事故に遭ってから、病院と家の往復以外、姉とは遠出しなかった気がする。
「がんばろう!」
「俺が、な。」
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