雪の夜泊まりの怪

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 氷雪吹き荒れる、どことも知れぬ細く険しい山道にて。  私とメリーはすっかり、立ち往生していた。  高速道路脇に立つ吹き流しの如く揺れる、肩まである彼女の金髪。  見るともなく、ぼうっと無心で眺める。  彼女が当夜の宿さえ予約しておけば、とがっくり肩を落とす。  歯ががちがち鳴るほど、凍える思いをする羽目には、ならなかったのに。  北国民話の発祥を探る、という唐突な思いつきの元。  急行列車へ飛び乗ったメリーに、引っ張られるようにして付いてきた私。  折りしも十二月の今日訪れた、今季最大レベルの寒気。  更にリサーチ不足のつけが回り、有名神社の例大祭と日が重なった。  おかげでごついカメラをぶら下げた観光客が、街中にわんさと溢れている始末。  ガラガラ上等な田舎のホテルが、どこも満室などとは誰が考えただろう。  役にも立たない後悔をしてみた所で、いい加減両足が鉛のように重い事実に変わりは無かった。  掌にはお守りのように、ぎゅっとスマホが握りしめられている。  番号をたった三つ、タップするだけで。  数十分もすると、救助隊が来ることだろう。  しかし明日のニュースで、“女子高生二人、真冬の山中で遭難”などと全国に流れた日には。  大手を振って校内を歩くことは、今後不可能に近い。  私の脳内の堂々巡りと葛藤など、最初から無かったかのように。  メリーが歓喜の声を上げた。 「見て、ヨーコ。  灯りが見えマス!」  嬉々としてはしゃぎだすメリー。  雪に覆われつつある指でさす、雪道の先にはポツンと小さな光。  なんとスキー場のロッジのような、小奇麗な一軒家があるではないか。  ドア脇にほんのり灯る雪の積もった暖色の電球が、凍えきった私の心に優しく染みわたる。  にっと口元を緩めたメリーと、無言で頷きを交わす。  最後の力を振り絞って、雪中の行軍を開始した。
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