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「くそッ。ナシェルのヤロー……いくらなんでも、マジでぶん殴るこたぁなかろうよ?」
旅の連れである乳兄弟を小声で罵りながら、青年は振り返る。自分が降りてきた船――いや、正確には追い出された客船「アヴェイロニア」号を遠目に眺めた。
白亜の帆船アヴェイロニア号がこの港に停泊して、二日目の朝を迎えていた。
「そりゃさ……旅の資金の入った財布を掏られたのは俺の不注意のせいだよ?
だけどその分を必死でなんとか工面しようとした俺の涙ぐましい努力ぐらいは、認めてくれてもいいじゃねぇか…」
独り言に言い訳を繰り返してみても、聞いてくれる者はいない。
親友の華麗な美貌と、それに似つかわしくない峻烈な一発を思い返すと、頬がまたずきずきと痛んで、彼を……ヴァニオンをげんなりさせるのだった。
――じつはヴァニオンのこの言い訳には不備がある。
正確な状況をもらさず吐露しているわけではない。
正確な状況はこうだ。
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