乳兄弟、旅の資金をスられ金策に走るの巻

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 冥界の王子ナシェルと、その乳兄弟で親友の魔族ヴァニオンは、ゆえあって地上界へ転生した王女ルーシェルミアを探す、旅の途中である。  西大陸の探索は見当違いに終わり、東大陸へと探索場所を変更するにあたって、移動手段にこの豪華客船を選択した理由はひとえに、ナシェルのわがままに端を発したものだ。  ふだん冥界にいるときは、彼らは背中に大きな翼を持つ黒天馬に乗って旅をするが、残念ながら地上界では天馬などに乗るわけにはいかない。翼を封じ、ただの黒馬のふりをさせている。  すると当然、大陸間の移動には人間のように船を用いざるを得ない。  船賃をけちったヴァニオンははじめ、ランクの低いボロ客船の席を手に入れてきた。この先の行程のことを考えて出費を最小限に抑えたかったのだ。  だがナシェルは人間どもと同じ狭い船室に押し込められる長い航海が嫌だったのだろう。そこでひと悶着あった末に、ヴァニオンは反動的にこの超豪華帆船の特等船室を確保した……してやったのだ。  一つ手前の寄港地で乗船し、ここに至るまでの数日間の航海は素晴らしく順調だった。  VIP船室の居住性はすばらしく、また船内には一等乗客以上専用のカウンターバー等や賭博室もあり、客を飽きさせないもてなしだ。ナシェルもまあさすがに気に入ったらしく、不平を垂れることもなくなり、彼らは人間にまじって何事もなく船旅を続けてきた。
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