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「んじゃあ何とかするけどさ、質に入れられそうな貴金属、他に持ってない?あ、そのでかい青い石の嵌まってる指輪とかさ。むちゃ高く売れそうじゃね」
「これはだめだ(ち、父上とお揃いのやつだし…)」
「何でだよ。危機的状況なんだからお前も協力しろってーの。金がなかったら新大陸に着くなり吟遊詩人のまねごとでもして二人で路銀稼ぐしかねーんだぜ。いや下手したら船の上で稼ぐハメになるかも」
渋るナシェルからほとんど無理矢理、青い宝石の輝く指輪を提供させ、ヴァニオンはふたたび陽の落ちた街へ出かけた。そして自分の持っていた金の首飾りも合わせて質に入れ、まあまあまとまった額の(当初の額には及ばないが)紙幣を手に入れた。
これを元手に、一日のうちに何とかして当初の資金額に近づけねばと考えたヴァニオンがとった行動――これが、ナシェル殿下を激怒させるに至ったのである。
ひと晩経って、朝焼けの射しこむ賭博場の通りに立っていたのは、元手をほぼ全額巻き上げられ、ほとんどミイラのようにひからびた表情の彼なのだった。
「 今度はカジノで負けただと……!!? 私のやった指輪も質に入れて、全部!?」
早朝、特等船室の寝台で入眠しようとしていたナシェルは、悪夢のような報告を受けるなりガウン姿でヴァニオンに掴みかかり制裁の一撃を見舞った、というわけなのだ。
「お前のような馬鹿にはついぞお目にかかったことがない! なぜ!? なんでそのまま博打につぎ込む!? もうこうなったら夕刻の出港時までにスリの子供を探して金を取り返して来い!さもなくばお前とはここでお別れだ!ここに置いていくからな!」
と、ナシェル王子は流れる黒髪を逆立てるほどの剣幕で宣言したのだった。
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