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「……なんで私が!? もういい、お前の顔など見たくない。3秒以内に出て行かなかったら神剣の錆にしてくれるぞ。1,2」
ほとんど逡巡する暇も与えずナシェルが寝台の脇の神剣を掴んだので、ヴァニオンは一目散にVIP船室を飛び出した。
「こ、殺す気まんまんだ危ねぇ…っ」
「もういちど云っておくが、金が戻ってこなかったら、お前も戻ってくる必要はないからな!」
脱兎のごとく廊下を走るヴァニオンの背中に、船室の扉から首だけ出した主君の追い打ちが、矢のように突き刺さった。
◇◇◇
「はぁーも~ナシェルのやつ……。横暴だし凶暴だしよ……」
ヴァニオンはナシェルの剣幕を思い出し、ずきずきする頬を押さえた。
「スリの子供を探して取り返せったってよぉ……どこをどう探していいものやら」
とぼとぼと、昨日の繁華街への道を歩く。
「たしかこの辺りで掏られたんだよな……どんな子供だったっけ?」
思い出してみる。背丈は、たぶんヴァニオンの肘ぐらいまでだろう。昔は白かったのだろうと思われる薄汚れた黄土色のチュニックに、茶色のズボン。茶色のつばに赤い継ぎ布をあてた帽子をかぶっていた。貧民窟の子供が誰でもしていそうな服装だ。参考にはならない。
『おっと、旦那、ごめんよ』
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