プロローグ

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 幼児期の髪の長かった(ゆう)がとんでもなくかわいかった事を(おん)ちゃんは知らないからなー。そう言えば、うちの母親なんて『優ちゃん、お人形さんみたい!かわいー!』って会うたびにバカみたいにキャーキャー騒いでたっけ。こういう記憶はいつまで経っても消えないんだから、もう良いのに、全く。ま、優は、普通に髪伸ばして女子らしくすれば、その辺のモデルなんて屁でもないだろうし、男にだってもてまくるに違いないんだけど。あ、噂をすれば来た。  噂の優は戸口で2人にニッと笑いかけながら軽く手を上げると、部外者だというのに遠慮の欠片もなく中に入ってきた。そして、自分の指定席と言わんばかりに壁際の椅子に座り、隣の椅子にカバンを投げ出した。「バスケ引退してからホント暇だなー。推薦も無事決まったし」 「優、またここで時間つぶすの?」 「うん。愛理と一緒に帰る」 「先帰れば良いのに」 「まあ、部長良いじゃないですか。みんなも喜んでますし」 「喜んでる?花奈(はな)とスーちゃん?」愛理は怪訝な顔で音風を見た。 「ええ。あの2人、ほわーってしてるんでわかりにくいですけどね」  (おん)ちゃんがそう言うなら、きっとそうなんだろう。「まあ、みんながイヤじゃないなら良いけど」 「やな訳ないですよ。部長、他でもない、優先輩ですよ?学校中の憧れの的ですよ?」 「そうだよな?音風(おんぷ)は話がわかるやつだなー」優がここぞとばかりに乗っかった。 「だから、それ、やめてくださいって。『(おん)ちゃん』か、せめて『青井』でお願いします」 「そんな嫌?かわいい名前じゃん。『青井音風(あおいおんぷ)』ってさ」 「ぅわーっ!」音風は優の声をかき消すようにわめいた。「フルネームは特にダメですよ」 「なんで?お前さ、自分でそんなの描いてるくせに何言ってんの?」優は音風のペンケースに描かれている青い色の音符マークを指さした。『青い音符』だ。 「これは、なんていうか、自分で自分と闘ってるっていうか…うまく言えませんけど、名前のせいで色々あったんで。きっとトラウマってヤツですよ。後10年くらいしたら受け入れられる…かもしれません」いつも明るく元気な音風が珍しく神妙な顔つきになっている。 「ふーん。なんかわかんないけど、お前、頑張ってんのな。じゃあ、『音ちゃん』で」 「どうも」
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