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翌日、クリスマスであり陽子の休日。彼女は暖房の効いた部屋で優雅に紅茶を飲みながら時折チョコレートを食べ、雑誌を読んでいた。
ピンポーン
唐突にインターホンが鳴り、陽子は眉をひそめる。重い腰をあげ、玄関に向かう。
「はーい」
何も考えずに玄関を開けると、いるはずのない人物が立っていた。
「やぁ、陽子さん」
「凪音……」
昨晩陽子が7階から落としたはずの凪音その人が爽やかな笑顔で立っていた。
「なんで……」
「話は中でいいかな?暖房ついてるよね?」
凪音は陽子の肩を抱き、中に入った。
玄関が閉まった途端、陽子は凪音の手を振り払った。
「昨日は握ってくれたのにな……」
寂しそうに言う凪音を無視して陽子は先程まで座っていた椅子に座り直す。凪音はその向かいの席に座った。
「で、なんで生きてるの?」
そう言い放つ陽子の声は冷たい。
「実は友達に頼んで落下地点に軽トラを置いといてもらったんだ」
「軽トラ?」
予想外の答えに陽子は思わず聞き返す。
「そう、軽トラ。それも荷台にマットレスやら羽毛ぶとんが敷かれた極上の軽トラ荷台」
よほど居心地がよかったのか、凪音はうっとりした表情で言う。
「なんでそんなもの……」
「陽子さんがデートに誘うからなんかあるなって。下見した結果、1番可能性高いのは転落死だと思って」
陽子は盛大なため息をついた。この男がここまで用意周到なのは予想外だった。
「そんなため息つかないで。それよりこれ、昨日渡しそびれたんだ」
凪音はそう言って陽子に深みのある赤のリングケースを差し出した。
受け取って開けると雪の結晶の形をした指輪が入っている。
「ありがとう、これはありがたく貰って後で売りさばいてやるわ。帰ってちょうだい」
「えー、酷いよ陽子さん……」
凪音は今にも泣きそうな顔で言う。
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