自分という存在

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「いやー、結構、結構。ここまでコミュニケーションが取れるならまず問題は無いね。残りの事はまたゆっくり考えていこう」 まだ笑う事を止められない様子の唐橋さんは、大きく口で呼吸しながらなんとか落ち着きを取り戻そうとしていた。 そんな唐橋さんに僕は深く頭を下げる。 「それもこれも全部唐橋さんのおかげです。本当にありがとうございます」 その言葉と動作に対して、一瞬の迷いも無く唐橋さんは答えた。 「僕は何もしていない。僕はただ、君が生きようとしているのをほんの少しだけ手助けしただけだよ」 そう言葉を返すその顔は、先程とは打って変わって凄く穏やかな笑みを浮かべていた。 ーーーあゝ、そうか、そうだよな。 きっとこの人はそうやって今まで数え切れない程の人達の命を救ってきたのだろう。 誰かが差し伸べた手を払いのけることの出来ないその不器用な手で。何度も何度も出会いと別れを繰り返しながら。 そしてそれは、きっとこれからも変わる事なく続いていくのだろう。 「感謝の気持ちくらい受け取って下さいよ」 精一杯笑ってそう言う僕を見て、唐橋さんは『それもそうだね』と再び笑顔になる。 せめて、この時だけでも楽にいてほしい。 だから僕は、僕だけは、笑っていようと思った。
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