自分という存在

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「ーーーんん…」 「…ああ、良かった!意識が戻ったんですね」 そう言って安堵のため息を漏らすその人は、さっきまで必死に声を上げていた事を忘れてしまったかのような穏やかな表情をしていた。 そして僕はと言うと、やはり相変わらず寝心地の悪い固いベッドの上に寝ている。 ーーーーー。 ーーー。 僕は直ぐに自分の体を確認する。 やはり、体は言う事を聞かない。 次にあの得体の知れない物を確認する。 先程までうるさいほど鳴り響いていたあの音は、今はすっかり鳴りを潜め、一定のリズムを刻んでいる。 ーーーそして、僕はあの紐の行方を探る。 「ーーーああ…」 やはり夢ではなかった。 あの紐は今もしっかりと僕の体の至る所に繋がれている。 でもどうしただろう。先程のような恐怖を感じない。 それどころか、前に目が覚めた時よりも落ち着いている気すらする。 「目が覚めたら急に知らない所に居たら誰でも驚きますよね…」 すみません、と一言添えてその人は深く頭を下げる。 「私の配慮が足りてなかった証拠です。本当に申し訳ない」 そう言ってその人はもう一度深々と頭を下げる。 それはもう、本当に申し訳なさそうに。 その行動を僕は理解出来なかった。 「…何故あなたが見知らずの僕に頭を下げるんですか?」 思わずそんな言葉を口にしてしまう。 僕はただ、思った事を口にしただけだ。 それなのに、言われた本人は僕のその言葉を聞いて凄く不思議そうな顔をする。 ーーー何かおかしな事を言っただろうか。 そんな事を考えてると彼は少し迷った挙句、少し砕けた口調でこう切り出した。 「…今、君がいる此処は何処か分かるかい?」 その言葉を聞いて、僕はポカンとする。 そう言えばここが何処か分からない。 何をする所なのか、何故僕はここに居るのか、考えても考えても分からない。 それどころか、ここに来る前まで何処にいて何をしていたのかすらも分からない。 ーーー分からない。 「もしかして、君…」 彼がその先の言葉を言う前に僕は聞かなければいけない。それは僕自身が口にするべき言葉なのだと。そんな気がした。 「僕は一体、何の為に此処に居るんですか?」 そしてもう一つ聞かなければならないことがある。 「…僕は一体、誰なんですか?」
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