自分という存在

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…唐橋が言うには、脳に何だかのダメージがあり、それが《記憶の消失》と言う現象を引き起こしているとの事だ。 ただ、それは一時的なもので、次第に取り戻していくだろうと言う。 正直、そんな事はどうだっていい。 俺にはやらなければならない事がある。 「…昴君?大丈夫かい?」 どうやら顔に出てたらしい。 唐橋は少し不安そうな眼差しでこちらを覗き込む。 「…ああ、悪い。少しボーッとしてた。続けてくれ」 「ああ…。では続けるよ」 俺の言葉に少し違和感を覚えたのか、少し戸惑いを見せ、呆気に取られるも、唐橋は話を続ける。 ーーー何か俺は変な事を言っただろうか。 そんな事を考えてる俺をよそに、唐橋は相変わらず、薄っぺらい紙をめくりながら、俺に出ている主な《症状》と言うものを読み上げている。特に変わった様子はない。 俺が感じた事はどうやら気のせいだったらしい。 俺は再び唐橋が読み上げるものに一応の注意を傾ける。 「記憶の消失と言うのは、命の危機に直面した時に防衛措置として働く事もあるんだ。これ以上の危機を心が耐えられないと判断した時とかにね。だから昴君の場合もーーー」     
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