1人が本棚に入れています
本棚に追加
何十年前になるだろうか。
クリスマスイブに彼とデートに行った日も、雪が降っていた。公園で待ち合わせをした後、電車に乗ってイルミネーションを見に行ったのだ。
きらめく街路樹に上の空になっているうちに、いつの間にか彼とはぐれて私は半泣きだった。
当時は携帯電話なんて便利なもの、なかったから、知らない街で、1人心細くて、仕方なく駅のプラットホームのベンチに腰掛けた。
ずっと待っていた。
多分ここなら待ってれば彼が来るだろうって。
でもいくら待っても彼は来なかった。
そのうち、雪が降ってきて、電車に乗る人でプラットホームはあふれて、私は仕方なく駅の自販機の横にしゃがみこんだ。
しゃがみこんだ途端、涙がこぼれて止まらなかった。
『どこにいったのよぅ…』
幸せに満ちたプラットホームの中で、私だけが場違いだ。
電車が発車する度に、駅員さんが気の毒そうに私のことを見たけれど、私はうつむいてじっとしているだけだった。
『お姉さん』
ふと呼ばれて顔をあげると、頬に暖かなブラックコーヒーの缶を押し当てられる。
黒いチェスターコートを羽織ったハンサムな青年だった。
『メリークリスマス』
涙目をこすりもう一度顔をあげると、そこには青年の姿はもうなかった。そのかわり、プラットホームの階段を駆け足で降りてくる彼の姿が見えた。
『ごめん』
きつく、暖かく抱きしめられ、緊張がほろりと溶けて体中から力が抜けていく。
『もうはなさないから。ずっと一緒にいよう』
最初のコメントを投稿しよう!