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「なんで親は、そう名付けたんだろうね?」  放課後の夕色に染まった教室で、渡貫(わたぬき)竜斗(りゅうと)はふとした疑問を口にした。  たわいのない話の途中の事だった。もっとも、ここまで落ち着いて話をするまでには多少の時間はかかったのだ。  告白という大イベントをこなした後はお互いの事を意識しすぎていて、沈黙のまま無為に時間を過ごしてしまう。これが約十分以上。そしてようやく緊張は解けていく。  会話のキャッチボールも、最初は堅苦しい学校の話題で、いつものようにバカ話ができるようになるまでは一時間以上の時間が必要だった。 「そうですね。あまりない名前ですから」  西日が差し込む教室の真ん中の席。机越しに向かい合うように座っている彼女がそう答える。一つ学年の下の後輩でもあった。  緩やかにウェーブのかかった、肩まである栗毛の髪は、水面に反射する夕陽のようにきらきらと輝いても見える。 「夏っぽいことには変わりはないけど」 「変わり者の親ですからね」  首を傾げながら彼女が苦笑いをした。小さな口元が左右非対称につり上がり、整った顔立ちからは窺えなかった人懐っこさが表れる。 「そういえばお仲間がいるじゃないか」     
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