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思いつくのは、あのIC乗車カードだった。
「や、プリペイドカードもどきが仲間と言われても困ります」
「あれは夏限定じゃないもんな」
「あたしだって夏限定じゃないですよぉ」
「やっぱり仲間?」
「や、それは否定しておきます」
再び苦笑いの彼女。そんな表情さえドキッとする。
「西野さんってさ」
「いいですよ……下の名前で呼んでも」
不意をつかれたその言葉は、告白が成功した時の彼女の返答よりもドキドキした。一瞬だけ頭の中が真っ白になる。
「嫌いじゃなかったの?」
彼女が下の名前で呼ばれるのを竜斗は聞いたことがなかった。大抵は名字で呼ばれるか、女の子なのに「西やん」と愛称で呼ばれるのがほとんどであったからだ。
「嫌いな奴から呼ばれるのはムカつきますけど……」
そう言ってうつむきがちになる彼女は、そこで口を濁す。
「けど?」
彼女は開き直ったように竜斗の目をまっすぐに見つめ直した。黒目がちの瞳が竜斗の心を射貫くような感じだ。
「わかりますよね? あたしは一回しか言わない主義なんです」
彼女はそう言って口元に人差し指を押し当てる。その仕草がやけにかわいらしくも思えた。
「うん。でも、実は俺も恥ずかしいんだ」
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