いつもそこに

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うちのマンションは警備が厳重で、エントランスを通過する為にはカードキーをかざす必要がある。 「毎回面倒くさいな」 私は毎日のこの儀式が面倒でしょうがなかった。 仕事は定時で終わるから、いつも7時過ぎ、決まった時間にエントランスを通り過ぎる。 同じサイクルで生活していると、出会う人も同じ。 毎日、幼稚園の年長さんくらいの少女を連れたお母さんが、カバンをガサゴソ探している私の後ろに立って、後について入ってくるのだ。 (あーあ、この人があと数分早く帰ってくれたら私はカード探さなくて済むのに) そんなことを思いつつ、同じエレベーターに乗り込む。 私は5階、母娘は4階。 降りる階が後になるので、私は毎回母娘の後ろに立つ。 その短時間、少女は私の真似をしているのか、ガサゴソ鞄をかき回しては、幼稚園であったのだろう、折り紙や小さな紙に書いたお手紙をくれる。 私は小声でありがとうと言ってそれをうけとるのが習慣になっていた。 「かわいい、今日は折り紙の花かあ」 少女からの可愛らしい贈り物に思わず微笑んでみせると、少女も笑顔を向けてくれる。母親もそんな私達を見て優しい笑みを浮かべ、丁寧にお礼を言ってくれるのだ。 4階に着くと、少女はぴょんとエレベーターから降りると、角を曲がって見えなくなるまで手を降ってくれる。 それが唯一の救いというか、いつのまにか癒しのひと時になっていた。
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