1 生命の本

5/7
前へ
/59ページ
次へ
(さむ)さと(いた)みと焦燥感(しょうそうかん)で、完全に前に行く気力を失った私は、(つい)にその場へ肩を落としてへたり込んだ。 「所詮(しょせん)、夢の中じゃない。何でこんなにがんばってんだ。私は馬鹿(ばか)か……?」 そのうち()める夢なんだ。 私はその場で(ひざ)(かか)えて丸くなり、事の()り行きを見守るポーズをした。 (昨日(きのう)、なんか変わったことがあったんだっけ?) ここまで執拗(しつよう)(いや)な夢を見るなんて、昨日何かあったからに決まっている。 昨日は(たし)か気分良く起きて、本買って…… 朝ちょっと旦那(だんな)喧嘩(けんか)したけど、いつものちょっとした口論(こうろん)レベル。あの人だって気にしてないのも分かっているし…… 「思い当たることは、何もない……」 まるで良くある刑事ドラマで、被害者(ひがいしゃ)殺害(さつがい)された原因(げんいん)について聴取()かれた友人ような台詞(せりふ)()いて、そのナンセンスさに私は思わず()き出した。 …… 当然、反応(はんのう)する者は何ひとつ無い。 夜の森の静寂(せいじゃく)最後(さいご)の気力が()い込まれるように消え、私の(そば)には孤独(こどく)と不安だけが寄り()った。覚める気配の全く無いこの悪夢の、寒々(さむざむ)とした空気が私の(のこ)りの体温を(うば)おうとして()()かる。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加