1 生命の本

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「う うう?……。 ……。 ……く っすぐっ……たい!」 ((なに)?) 何か、(あたた)かくてふわふわとしたものが、近づいてきて私の(ほお)()めた。 『くうん くん くん』 アポイントも取らずにいきなりやって来たそいつは、自分の話せる唯一(ゆいいつ)言語(げんご)で私に向かって挨拶(あいさつ)をした。 むくむくの……子犬? レトリーバー?  ? 「でっ……かい!」 『わふ わっふ』 フレンドリーで遠慮(えんりょ)のないそいつは、尻餅(しりもち)をついている私の鼻面(はなづら)悠々届(ゆうゆうとど)巨体(きょたい)にも(かか)わらずあどけない子犬の造形(ぞうけい)をした不思議(ふしぎ)な生き物だった。 「こら。もう、やめなさい」 楽しそうに尻尾(しっぽ)()りながら私の鼻を()めてくる子犬(?)を、どうにかして落ち着かせた私は、すぐ足元に(やわ)らかそうな毛布(もうふ)が落ちていることに気付いて取り上げた。 「あら、もしかして持ってきてくれたの?」 ところどころ犬の毛が付着した毛布を自分の身体に()きつけながら、私はなおも(まと)わりついて挨拶(じゃれつき)を続けようとする子犬に対して、自分に都合(つごう)の良い情況解釈(じょうきょうかいしゃく)から来る親愛(しんあい)(じょう)(しめ)した。 『くん くうん くん』 突然(とつぜん)現れた奇妙(きみょう)な大きい子犬は、まるで子供の頃()っていた愛犬(あいけん)のように(つね)に私へ顔を向けながら、()えた身体(からだ)(あたた)まるまで私の(そば)に寄り()ってくれた。
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