2 オゼ

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「この子なのかい?」 不意(ふい)に草原の向こう側から不思議な温かみを感じる、落ち着いた男性の声が聞こえてきた。 (ほう)けたように空ばかり(なが)めていた私は、聞き()れないその声に(おどろ)いてきょろきょろと周囲を見渡(みわた)した。 動くものの少ない広場(ひろば)の中で声の主はすぐに見つかり、私の視線(しせん)は森の切れ目の木陰(こかげ)から、()()ぐこちらへ歩いてくる巨大な人影(ひとかげ)釘付(くぎづ)けになった。 黒地(くろぢ)(はい)色の(おび)の入ったシルクの帽子(ぼうし)(かぶ)り、やはり黒色のマントを身に付けた西洋風(せいようふう)()()ちの紳士(しんし)。 声の主はずんずんと私の目前まで歩み()り 「こんばんは。お(じょう)さん、お加減(かげん)如何(いかが)ですか?」 と、言って帽子(シルクハット)を取って挨拶(あいさつ)をした。 私は毛布で一緒(いっしょ)(くる)まっていたマシューを()きしめると、何時(いつ)でも()げ出せるように後退(あとずさ)りをしながら立ち上がった。 「(こわ)がらなくても、大丈夫(だいじょうぶ)ですよ」 片手(かたて)にステッキ、反対の手にシルクハットを持って両手(りょうて)を広げたその声の主は、柔和(にゅうわ)面立(おもだ)ちでとても(やさ)しそうだ。少なくとも悪人(あくにん)では無さそうだ、という印象(いんしょう)を受ける。 しかし私は警戒(けいかい)姿勢(しせい)(くず)すことなく、相手と(つね)一定(いってい)距離(きょり)(たも)って草原を()げ回った。 何が(こわ)いという(わけ)もない。相手が巨大すぎるのだ。 女性としては大分(だいぶん)身長(しんちょう)の高い部類(ぶるい)に入る私より、(ばい)ちかく()が大きいというのは、ヒトとして理解(りかい)限界(げんかい)()えている。こんな“巨人”はテレビでも()たことはない。 「ああ、そうか私が大きくて(おそ)ろしいのですね。……では、君くらいの幼い子には、こんな魔法(まほう)如何(いかが)でしょうか?」 私の気持ちを(さっ)したのか、巨人は困惑(こんわく)したような表情(ひょうじょう)で何かを思案(しあん)する素振(そぶ)りを見せたあと、(ふところ)からハンカチを取り出して、それを反対の手に持ったステッキの先端(せんたん)(かぶ)せた。
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