4人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
「この子なのかい?」
不意に草原の向こう側から不思議な温かみを感じる、落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
呆けたように空ばかり眺めていた私は、聞き慣れないその声に驚いてきょろきょろと周囲を見渡した。
動くものの少ない広場の中で声の主はすぐに見つかり、私の視線は森の切れ目の木陰から、真っ直ぐこちらへ歩いてくる巨大な人影に釘付けになった。
黒地に灰色の帯の入ったシルクの帽子を被り、やはり黒色のマントを身に付けた西洋風の出で立ちの紳士。
声の主はずんずんと私の目前まで歩み寄り
「こんばんは。お嬢さん、お加減は如何ですか?」
と、言って帽子を取って挨拶をした。
私は毛布で一緒に包まっていたマシューを抱きしめると、何時でも逃げ出せるように後退りをしながら立ち上がった。
「怖がらなくても、大丈夫ですよ」
片手にステッキ、反対の手にシルクハットを持って両手を広げたその声の主は、柔和な面立ちでとても優しそうだ。少なくとも悪人では無さそうだ、という印象を受ける。
しかし私は警戒の姿勢を崩すことなく、相手と常に一定の距離を保って草原を逃げ回った。
何が怖いという訳もない。相手が巨大すぎるのだ。
女性としては大分身長の高い部類に入る私より、倍ちかく背が大きいというのは、ヒトとして理解の限界を超えている。こんな“巨人”はテレビでも観たことはない。
「ああ、そうか私が大きくて恐ろしいのですね。……では、君くらいの幼い子には、こんな魔法は如何でしょうか?」
私の気持ちを察したのか、巨人は困惑したような表情で何かを思案する素振りを見せたあと、懐からハンカチを取り出して、それを反対の手に持ったステッキの先端に被せた。
最初のコメントを投稿しよう!