2 オゼ

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ぽっ、ぺんぱ! ()頓狂(とんきょう)な音が何処(どこ)からか聞こえ、ステッキの先から(いきお)()()び上がったハンカチの中から白い花びらのマーガレットの花が、次々(つぎつぎ)とこぼれ出た。 巨人の手品師(てじなし)か、手品師(てじなし)の巨人か。幼稚園(ようちえん)披露(ひろう)したら()けそうな一発芸(いっぱつげい)だ。 しかし流石(さすが)にそんな子供だましで気を取られる理由もなく。私は(きびす)(かえ)して()け出した。 (()げなくては) 瞬時(しゅんじ)にそう判断(はんだん)した私だったが、月明(つきあ)かりがあるとは()真夜中(まよなか)山頂(さんちょう)視界(しかい)(わる)い。(ほど)なく私は何かに足を()られて(ころ)んでしまった。 そのとき…… 草むらに(うつぶ)せた私を中心に、白やピンク、黄色に赤青、色とりどりの花々が、波紋(はもん)のように()(ひろ)がって、(あた)りは一面(いちめん)夜の花畑(はなばたけ)姿(すがた)()えた。 私は(おどろ)きのあまり声を(うしな)い、その場で(こし)()けたように(すわ)()んだ。先刻(せんこく)までの薄暗(うすぐら)草原(そうげん)が、(うそ)のように明るい(ひかり)(つつ)まれている。 「(はじ)めまして、私は魔法使(まほうつか)いの“オゼ”と(もう)します。あなたのお名前(なまえ)(おし)えていただけますか?」 丁寧(ていねい)なお辞儀(じき)(あと)片膝(かたひざ)()き、私へ(たい)する敬意(けいい)表明(ひょうめい)した“魔法使(まほうつか)いのオゼ”は、再び巨体(きょたい)で立ち上がると魔法(まほう)(ゆび)を"ぱちん"とひと()らしして私の返答(へんとう)()紳士的(しんしてき)笑顔(えがお)でその場に(たたず)んだ。 すぐに魔法(まほう)効果(こうか)発揮(はっき)して、私は(まばた)きをするのも忘れて呆然(ぼうぜん)山頂(さんちょう)花畑(はなばたけ)から森を()えて(あか)るいレンガの歩道(ほどう)()びていく様子(ようす)見守(みまも)った。 (なん)根拠(こんきょ)もなかったが、何故(なぜ)かこの(みち)(あたた)かい安全(あんぜん)人里(ひとざと)(つな)がっているように見えた。 「私は…… 弥月(みづき)」 名前を()げて、私が“オゼ”を見上げると、彼は元どおりの困惑(こんわく)したような、微妙(びみょう)表情(ひょうじょう)に少しだけ微笑(ほほえみ)(まじ)えて(はな)(はじ)めた。
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