4人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
「可愛らしい弥月さん。よろしくお願いいたします。
私は今宵、あなた様が“こちら"へ降って来られることを伺い、お迎えに参りました“こちらの側”の担当者で、
先ほどもご紹介させていただいた魔法使いの“オゼ”と申します。
私の仕事は、弥月さん……あなたを、無事に“向こう”までエスコートすることでございます。
どうか恐れることなく、私めと御一緒に先ずはこの山を降りて下さいますよう、お願いいたします」
私は眼前に広がる風景を半ば呆れたような心持ちで見つめながら、"オゼ"の言葉に無言で頷き同意をした。
「それでは参りましょう」
手入れの行き届いた白髪混じりのあごひげを軽くひと撫でして、"オゼ"はゆっくりと私を導くように歩き始めた。
そして、私の横に“お座り”している子犬にむかって
「さあ"マシュー"お前もふらふらせずに、しっかりと私たちのあとに付いて来るんだよ」
と、優しい口調で語りかけた。
『わん』
巨大な子犬は、すぐにその言葉に反応して、嬉しそうに尻尾を振りながら、彼の後ろをとことこと付いて行く。
彼らの様子は、飼い犬と主人そのもので、
私はその光景に何処か懐かしさに似た、不思議な感情を覚えた。
そして、同時に何故彼がマシューを知っているのか、理解できずに困惑した。
「ねえ、どうしてあなた、私がこの子に付けた名前を知っているの? もしかして私たちの様子をずっと何処かから窺っていたの?」
また少し怖くなった私は、立ち止まってオゼに質問した。
「おや? 弥月さんも既に彼から教わっていたのですね。そうです彼は、とても賢くとても暖かでしたでしょう」
何を言っているのだろう?
全く理解できない。何かをはぐらかす目的からなのか?
……それとも……彼らは私たちとは少し違っている……からなのかしら?
最初のコメントを投稿しよう!