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毎朝、日が高くなると“オゼ”は何処かへ出かけて行く。
何やら責任ある仕事を担当しているとか言っていたような気がする。
私は、最初にここへ来た日から数えて、ちょうど一週間後の昼過ぎにオゼのお城(?!)へ行く約束になっていた。
この家にも長く滞在するには、所定の“手続き”を済ませなくてはならないらしい。
オゼの帰りを待つあいだ、私はテーブルの上のバスケットにいつも入っているサンドイッチを食べたり、オゼの書斎で本を漁ったりして過ごした。
オゼの書斎にはぎっしりと本の詰まった書棚があって、その中から面白そうなものを探しているだけでも一週間くらいは十分に楽しめそうだった。
見たこともないような言語で書かれた物も多いなか、自分でも読めそうな本はないかと探していると、机のすぐ傍の書棚の一番下の段に、古本屋で見つけた“あの本”とそっくりな装丁の本が置かれているのを見つけた。
何となく予感はあったが、それを見出した瞬間私の心臓は激しく動揺し、安易に"それ"に触れることが軽率な行為であると断定した指先が勝手にぴりぴりと痙攣した。
何を恐れてそうなるのか、自分自身でも理解できず、私は部屋の真ん中でしゃがみ込んで逡巡していたが、いつまでもおろおろしていても仕方なく、とうとう意を決して"それ"を書棚から抜き取った。
私の買ったものよりも、少し古い年代の発行らしい"それ"は、ドイツ語ではなく、別の見たこともない言語で書かれていて、私のものと同一の出版物ではなかったが、銅版画の挿絵や、それらの扱われる順序などから、全く同じ内容の物語を描いている本であることは理解できた。
……やっぱり、そうだった。でも……
手に取る前は、あれほど恐ろしいもののように感じられていた本は、小さな私の手のなかで窓から差し込む陽光を浴びて、今では輝いてさえいるように見えた。
きっとオゼならば、この本がどういった経緯で書かれたものであるのか知っているに違いない。
時間があれば、他の絵本のように読み聞かせて貰うことだって出来るかもしれない。
私はそれまで滞っていた全ての問題が少しずつ前進するような感覚がして、とても嬉しい気持ちになった
机の上に本を置き、書斎の窓から外を見ると、麗らかな春の陽射しが薄青色の空から、芽吹いたばかりの若草の大地へと降り注いでいる。
私は昼食の入ったバスケットを持って外に出た。
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