3 宝の地図

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毎朝(まいあさ)、日が(たか)くなると“オゼ”は何処(どこ)かへ出かけて行く。 何やら責任(せきにん)ある仕事(しごと)担当(たんとう)しているとか言っていたような気がする。 私は、最初(さいしょ)にここへ()た日から(かぞ)えて、ちょうど一週間後(いっしゅうかんご)昼過(ひるす)ぎにオゼのお城(?!)へ行く約束になっていた。 この(いえ)にも長く滞在(たいざい)するには、所定(しょてい)の“手続(てつづ)き”を()ませなくてはならないらしい。 オゼの(かえ)りを()つあいだ、私はテーブルの上のバスケットにいつも入っているサンドイッチを()べたり、オゼの書斎(しょさい)で本を(あさ)ったりして()ごした。 オゼの書斎(しょさい)にはぎっしりと本の()まった書棚(しょだな)があって、その中から面白(おもしろ)そうなものを(さが)しているだけでも一週間くらいは十分(じゅうぶん)に楽しめそうだった。 見たこともないような言語(げんご)で書かれた物も多いなか、自分でも()めそうな本はないかと(さが)していると、(つくえ)のすぐ(そば)書棚(しょだな)の一番下の(だん)に、古本屋(ふるほんや)で見つけた“あの本”とそっくりな装丁(そうてい)の本が()かれているのを見つけた。 何となく予感(よかん)はあったが、それを見出(みいだ)した瞬間(しゅんかん)私の心臓(しんぞう)(はげ)しく動揺(どうよう)し、安易(あんい)に"それ"に()れることが軽率(けいそつ)行為(こうい)であると断定(だんてい)した指先(ゆびさき)勝手(かって)にぴりぴりと痙攣(けいれん)した。 何を(おそ)れてそうなるのか、自分自身(じぶんじしん)でも理解(りかい)できず、私は部屋の()(なか)でしゃがみ込んで逡巡(しゅんじゅん)していたが、いつまでもおろおろしていても仕方(しかた)なく、とうとう()(けっ)して"それ"を書棚から()()った。 私の()ったものよりも、少し(ふる)年代(ねんだい)発行(はっこう)らしい"それ"は、ドイツ語ではなく、別の見たこともない言語(げんご)で書かれていて、私のものと同一(どういつ)出版物(しゅっぱんぶつ)ではなかったが、銅版画(どうはんが)挿絵(さしえ)や、それらの(あつか)われる順序(じゅんじょ)などから、全く同じ内容(ないよう)物語(ものがたり)(えが)いている本であることは理解(りかい)できた。 ……やっぱり、そうだった。でも…… 手に取る(まえ)は、あれほど(おそ)ろしいもののように感じられていた本は、小さな私の手のなかで(まど)から()()陽光(ひかり)()びて、今では(かがや)いてさえいるように見えた。 きっとオゼならば、この本がどういった経緯(いきさつ)で書かれたものであるのか知っているに(ちが)いない。 時間があれば、他の絵本のように()()かせて(もら)うことだって出来るかもしれない。 私はそれまで(とどこお)っていた全ての問題(もんだい)が少しずつ前進(ぜんしん)するような感覚(かんかく)がして、とても(うれ)しい気持ちになった (つくえ)の上に本を()き、書斎(しょさい)(まど)から外を見ると、(うら)らかな春の陽射(ひざ)しが薄青(うすあお)色の空から、芽吹(めぶ)いたばかりの若草(わかくさ)大地(だいち)へと()(そそ)いでいる。 私は昼食(ちゅうしょく)の入ったバスケットを()って外に出た。
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