3 宝の地図

4/10
前へ
/59ページ
次へ
ほの(あたた)かい春風(はるかぜ)のなか、私は(まち)とは反対の(あさ)渓流(けいりゅう)のある南西(なんせい)方角(ほうがく)へむかった。 オゼからは、楽しいお店もいっぱいあるという市街地(しがいち)へ向かう道順(みちじゅん)()いてはいたが、知り合いも居ない(まち)なかへ子供ひとりで行ってみようとは思わなかった。 (みち)ばたにはハコベやカタバミなどが()いていて、北国(きたぐに)の春の景色(けしき)が私の(こころ)を楽しませてくれる。 冬には二階(にかい)まで雪が()もるというオゼの家の軒先(のきさき)で、ふた(かぶ)(なら)んだスズランの(しろ)くて小さな花が風にちろちろ()れている。 雪解(ゆきど)けの(きよ)らかな水の流れる渓流(けいりゅう)へ向かって"オゼのひまわり畑"のあいだを()うように(つづ)散歩道(さんぽみち)も、黄色(きいろ)いレンガが()()められていて私の気分(きぶん)()り上げてくれる。 すっかり上機嫌(じょうきげん)の私は、まだ花がつく前の(みどり)(くき)だけ()びた面妖(おか)しなかたちのひまわりを横目(よこめ)に、一歩(いっぽ)ずつゆっくり、とことこと歩いた。 しばらく行くと子犬のマシューが畑のなかで、モンシロチョウを追いかけ(あそ)んでいる。 「マシュー。おはよう」 朝の挨拶(あいさつ)を私がすると、まだむくむくとして(やわ)らかそうな子犬は、(うれ)しそうに尻尾(しっぽ)をぴゅんぴゅん()りながら私の(あと)にくっついて来た。 ぽかぽかと(あたた)かい()()びて軽快(けいかい)足取(あしど)りで私たちは歩く。 (さわ)やかな春の風が(やさ)しく(ほお)()で、私の(かみ)背中(せなか)()わせて()っていく。 本当に子供の(ころ)(もど)ったみたいで、なんだかとても楽しい気分だ。 でも…… (きゅう)に子供になった自分の身体(からだ)に、まだあまり()れていない私は、歩き(やす)いようにきちんと整備(せいび)されているはずのレンガの道で、みじかい(あし)をもたつかせて何回も(ころ)んでしまった。 「ありえない…… ひざを()りむいただけなのに、どうしてこんなに(いた)いの?」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加