3 宝の地図

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漫画(まんが)などではよく、ほっぺたをつねって(ゆめ)なのかどうか(たし)かめるシーンがあるけれど、どういう(わけ)かこの夢に、その常識(じょうしき)通用(つうよう)しないらしい。 私は(ころ)んで出来た(ひざ)()(きず)から()()せる鮮明(せんめい)(いた)みに、思わず声を上げて()きそうになった。 本当に、現実(げんじつ)傷口(きずぐち)のように(いた)くてしみる。 でも……もし、これが夢ではなくて現実(げんじつ)だったら? ……(おっと)今頃(いまごろ)どうしてるだろう? ()なくなった(?)私を心配(しんぱい)して、あちこち(さが)(まわ)っていたりするのだろうか……それとも、もしかして私は、あの竜巻(たつまき)で死んでしまった……? (いや)妄想(もうそう)次々(つぎつぎ)()かんで私の心を動揺(どうよう)させる。 いいえ、まさかそんなはずないわ。それはあまりに非常識(ひじょうしき)すぎるもの。 悲観的(ひかんてき)妄想(もうそう)批判的(ひはんてき)理性(りせい)否定(ひてい)する。 ……それなら本当に、ただ長い夢を見ているだけなのかしら? だけど……それも少しだけ(ちが)うような気がする。 そんな事、いくら(かんが)えたって私にはどうすることも出来ないのに…… 否定と批判が(まわ)りまわって、私の意識(いしき)はうろうろと彷徨(さまよ)う。 『くうん』 気遣(きづか)うような()き声とともに、ちょっと(つめ)たい子犬の(はな)がうつ()せの(ほお)へ、ふんふんと()しつけられて来た。 顔を上げると、マシューが必死(ひっし)に私のあごを()めてくる。 (みち)(たお)れたまま、()き上がろうとしない私を心配(しんぱい)してくれていたらしい。 「……だいじょうぶ。ごめんね、マシュー心配しないで」 私は子犬に向かって言い聞かせるようにそう言って、自分自身(じぶんじしん)の心を(はげ)まそうとした。 この数日(すうじつ)のあいだ、どんなに強く目を()まそうと(ねん)じたところで(もと)の世界へ(もど)ることはなかったし、それ以上(いじょう)どうすることも出来はしなかった。 そうだ出来ない。(かんが)えたって仕方(しかた)ない。 なぜなら、いまの私は(ころ)ばずに(ある)くことすら満足(まんぞく)に出来ない小さな子供なのだから。 出来ないことに(あせ)りを感じる必要(ひつよう)など何処(どこ)にもないのだ。 私はそう(おも)(なお)してレンガ()きの歩道(ほどう)を再び(ある)き出した。 "この国"で私のことを保護(ほご)してくれている“オゼ”は、紳士(しんし)(やさ)しく博学(はくがく)で、とても(たよ)りになりそうだ。 彼は心から信頼(しんらい)しても良さそうな好人物(こうじんぶつ)で、何より“すごい魔法使(まほうつか)い”なのだ。 まあ、いわゆる"常識(じょうしき)"でものを言うなら眉唾(まゆつば)ものの彼の肩書(かたが)きも、"この国(ゆめのなか)"では本物(ほんもの)(かがや)きを(はな)っている。 彼の他にも“この国”には、信じられないような出来事がたくさんあることを(かんが)みれば、オゼがただのペテン()ではないことは(たし)かだと思う。 とにかく"オゼ"が私を(たす)けようとしてくれていることは本当であったし、彼を信頼(しんらい)する以外、私に出来ることはもうない。 (われ)ながら不安定(ふあんてい)な自分に辟易(へきえき)しつつも、私は昨夜(さくや)夕食時(ゆうしょくどき)にオゼが見せてくれた(おど)宝石(ほうせき)魔法(まほう)を思い出したり、立ち止まって子犬のあたまを()でたりしながら、ひまわり畑を()えて何本か広葉樹(こうようじゅ)(なら)んだ林の前までたどり()いた。 *** 本当に、何があってもおかしくない、と思う。 (たと)え、林の中で少年が片手(かたて)()り上げた姿勢(しせい)硬直(こうちょく)していても、私は少しも(おどろ)いたりしない。 (べつ)(おそ)って()るでなし、まあ(へん)ではあるが……いや、可笑(おか)しいか? 「ねえ、あなた。一体そこで何をしているの?」
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