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「あなた、どうして知っているの?」
「草むらにいる喋りうさぎに聞いたよ」
喋りうさぎ。ですって?
真面目な顔で平気で嘘を吐く少年にますます腹を立てた私は、きんきんした子供の声で言い返す。
「何を言っているの? うさぎが喋るわけがないじゃない。あなた嘘つきよね。そう言う態度よくないよ。私、さっきのあなたの踊りの振り付けも本当は全部知っているけど、絶対教えてなんかあげないから!」
腹いせに仕返しの嘘も交えて反撃した私は、ようやく気分がすっきりとした。
ところが、少年は嘘を真実に受け止めたらしく、瞳を輝かせて嬉しそうな声で答えてきた。
「なんだって! 知っているのかい?」
「ええ、もちろん、よ」
売り言葉に、買い言葉……
「ぼく、どうしてもこの先の“振り”を知りたかったんだ。お礼をするから出来たらここで、やってみせてはくれないか?」
彼は本当に子供らしかった。私はどうにも嘘だったとは言い難くなり、適当にそれらしい踊りの振りをして見せた。
「えっと、ほら、ここをこうして……」
「ははあ、なるほど…… これは大人の振り付けだなあ…… それでこのあとはどうするんだい?」
素人の私より、よっぽど踊れる少年は私の考えた適当な振りを“ちゃんとした”バレエの振り付けらしく完成させた。
「へええ、結構良いね。気に入ったよ。教えてくれてありがとう」
少年の真っ直ぐな瞳で礼を言われた私は、少しだけ彼に対して後ろめたい気がした。
「え、ええ。どういたしまして。あなたのダンスも、とても素敵だったわ」
「君の振り付けのおかげだよ。ようやく踊れて楽しかった。本当にありがとう……ええと?」
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