4人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
「私は“弥月”」
「やあ、初めまして“弥月”素敵な振り付けをありがとう」
少年は、心の底からの笑顔で感謝の言葉を述べた。子供らしい笑顔がとても美し《うつくし》かった。
「あなたは、お名前なんていうの?」
「それは、ごめんね。今は言えないんだ」
「言えないの? どうして?」
「教えられない。でも約束だから、お礼にこれを見せてあげるよ」
名前の言えない少年は、そう言って懐から折り畳んだ紙のようなものを取り出すと“ひょい”と軽く木々のあいだを飛び越えて来て、ぐんぐんと私の方に近付いて来た。
『わん わわん! わんっ』
遠慮なく私の傍へ寄ってくる少年に、驚いたマシューが吠え立てた。
「おっとっと、この子は君の友達かい? ぼくを敵だと思っているみたいだ」
少年が悪意のないポーズを示しても、マシューは私を守って唸り声を止めない。
「マシュー大丈夫、悪い子じゃないよ」
「まいったな、近付けないね」
「きっと、あなたが名前を言わないのが良くないの。まだ私のお友達だと認められてはいないんだわ」
「それは、困った。困ったね」
最初のコメントを投稿しよう!