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「わー どろぼー!」
この情況に、自分が何をするべきか即座に判断を下したリード少年は、きんと響く雄叫びを残して家の中へ飛び込んで行ってしまった。
俊敏すぎる彼らの動きに付いて行けず、取り残されたかたちになった私は、しかし、少しも焦ることなく明るい緑の庭先に佇んで、どこか他人事のように目の前の光景を眺めただけだった。
何故なら
『オゼの魔法に守られているこの家が、泥棒に入られるなんてことは絶対にあり得ない』
という"当たり前の事実"に、私は既に気が付いていたからである。
「あ、こら。まて!」
『わんっ わん』
呑気にひらひら舞い飛んでいる珍しい蝶の翅模様に目を奪われている私の耳に、ばたばたと物の倒れる音と、慌てたふたりの少年の声が騒々しく聞こえて来る。
(一体何を騒いでいるのやら……でも、本当に大丈夫なの?)
延々と止まない大騒ぎの音に、やはり少しだけ不安を感じた私は、ゆっくりと玄関に近づいて中の様子を窺った。
「ねえ、どうしたの?」
「………………」
恐る恐る私が声を声をかけると、先程まで続いていた物音が、不意に静まって返返事すらない。
「なによ黙って、どうしたのよ?」
『にゃー』
再びの私の問いかけが終わるかという瞬間、半開きのままの玄関の扉から、灰色の何かが突然飛び出して来て、私を大いに驚かせた。
「猫だ!」
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