5 トンボ広場

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どうしてそんな簡単(かんたん)言葉(ことば)を、わざわざ意味のわからない暗号(あんごう)()()えて書いているんだろう。 英語(えいご)ってこんなに理解不能(りかいふのう)なものだったかしら? 地図の(あらわ)目的地(もくてきち)について、オゼの話す内容(ないよう)にいちいち熱心(ねっしん)質問(しつもん)をぶつけているリードを他所(よそ)に、私は(ひと)紙面(しめん)(なら)(なぞ)文字列(もじれつ)を見つめながら、しきりに(くび)(ひね)っていた。 二、三十分(にさんじっぷん)もそうしていただろうか、突然(とつぜん)(となり)(すわ)っていたリードが立ち上がり 「ぼく、帰ります」 と言ってぺこりと頭を下げ、夕食(ゆうしょく)のお(れい)丁寧(ていねい)()べると、そそくさと帰って行ってしまった。 思えば大分(だいぶん)(おそ)時刻(じこく)になっており、私は唐突(とうとつ)な事に多少(たしょう)面食(めんく)らいながらも『(あわ)てた様子の小さな子供を、ひとりで(くら)夜道(よみち)(はし)らせて(あぶ)なくないだろうか』と少し心配(しんぱい)になった。 複雑(ふくざつ)表情(ひょうじょう)で少年の後ろ姿(すがた)見守(みまも)っている私の(こころ)(こえ)()こえたかのように、いつも困惑(こんわく)した表情をしている“大魔法使(だいまほうつか)いオゼ”は、私の足元(あしもと)にじゃれついている子犬のマシューに優しい声で(かた)りかけた。 「マシュー。お(ねが)いします」 『わん』 オゼからの命令(めいれい)()っていたように、頭の()子犬(マシュー)(あるじ)の言葉が()わらないうちに、颯爽(さっそう)夜道(よみち)()け出すと、あっという間に少年(リード)の側まで追い付いていった。 そしてそのまま前方(ぜんぽう)に出て、まるで道案内(みちあんない)でもするように今度(こんど)はゆっくりと(ある)き始めた。 「ああ良かった。マシューに(まか)せて()けば安心(あんしん)だね」 「ええ、でも一応(いちおう)(ねん)のために彼の親御(おやご)さんにも連絡(れんらく)をしておくことにしましょうか」 何処(どこ)からかオゼは回覧板(かいらんばん)のような紙束(かみたば)を取り出して、(なに)やらページを(めく)っている。 (電話(でんわ)もないのにどうやって、オゼは連絡(れんらく)をするのかしら?) 多少(たしょう)疑問(ぎもん)が私の頭を一瞬(いっしゅん)だけ混乱(こんらん)させたが、この数日間(すうじつかん)で知らされたオゼの万能(ばんのう)ぶりを思い出して、まあ、オゼならどうとでもするに(ちが)いないとすぐに(おも)(なお)した。
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