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どうしてそんな簡単な言葉を、わざわざ意味のわからない暗号に置き換えて書いているんだろう。
英語ってこんなに理解不能なものだったかしら?
地図の表す目的地について、オゼの話す内容にいちいち熱心な質問をぶつけているリードを他所に、私は独り紙面に並ぶ謎の文字列を見つめながら、しきりに首を捻っていた。
二、三十分もそうしていただろうか、突然、隣に座っていたリードが立ち上がり
「ぼく、帰ります」
と言ってぺこりと頭を下げ、夕食のお礼も丁寧に述べると、そそくさと帰って行ってしまった。
思えば大分遅い時刻になっており、私は唐突な事に多少面食らいながらも『慌てた様子の小さな子供を、ひとりで暗い夜道へ走らせて危なくないだろうか』と少し心配になった。
複雑な表情で少年の後ろ姿を見守っている私の心の声が聞こえたかのように、いつも困惑した表情をしている“大魔法使いオゼ”は、私の足元にじゃれついている子犬のマシューに優しい声で語りかけた。
「マシュー。お願いします」
『わん』
オゼからの命令を待っていたように、頭の良い子犬は主の言葉が終わらないうちに、颯爽と夜道に駆け出すと、あっという間に少年の側まで追い付いていった。
そしてそのまま前方に出て、まるで道案内でもするように今度はゆっくりと歩き始めた。
「ああ良かった。マシューに任せて置けば安心だね」
「ええ、でも一応念のために彼の親御さんにも連絡をしておくことにしましょうか」
何処からかオゼは回覧板のような紙束を取り出して、何やらページを捲っている。
(電話もないのにどうやって、オゼは連絡をするのかしら?)
多少の疑問が私の頭を一瞬だけ混乱させたが、この数日間で知らされたオゼの万能ぶりを思い出して、まあ、オゼならどうとでもするに違いないとすぐに思い直した。
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