2 オゼ

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2 オゼ

此処(ここ)に着いてからどのくらい時間が()っただろう? 森からの脱出(だっしゅつ)に成功した私は、途中で出会った巨大な子犬の“マシュー”と(とも)見知(みし)らぬ山の頂上(ちょうじょう)にある草原で(あたた)かい毛布に(くる)まって、しゃがんだ姿勢(しせい)で夜空をずっと見上(みあ)げていた。ながいながい夢のなか、少しずつ天頂(てんちょう)に近づく月を(なが)めながら時を(はか)ったりしていたが、どうにもこの夢に終わりを感じることが出来なかった。 しかし、それにしてもなんという出鱈目(でたらめ)だろうか。 私は(あらた)めて目の前の光景(こうけい)(あき)()て、ため(いき)()いた。 満月の仄明(ほのあか)るい夜空には、(いく)つも巨大な“天体(てんたい)”が()かんでいる。 “土星(どせい)”とか“金星(きんせい)”などという太陽系(たいようけい)(おも)だった惑星(わくせい)が、科学図鑑(かがくずかん)などに()っている写真そのままの姿で、月の何倍もある大きさに見えるのだ。 どう考えても出鱈目(でたらめ)だろう。 あそこに()ぶのは彗星(すいせい)なのか。 氷の(かたまり)が夜空を横切(よこぎ)るのがよく見える。現実世界(げんじつせかい)で目にしたら、きっと地球がなくなってしまうであろう絶望(ぜつぼう)的な光景(こうけい)が、あまりにも美しく壮麗(そうれい)で私はすっかり心を(うば)われてしまっていた。
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