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 私は大陸の北部に位置する町の商人である。商人と言ってもこたつ売りしか能がないので、取り扱っていたのはこたつのみ。こたつのみと言ってもその種類は豊富だ。掘りごたつに座りごたつ、天板の材質や毛布の素材など、私ですら未だ最高のこたつに出会えていないだろう。  幸いにも私のいるこの町は、毎年のように訪れる凍えるような寒波に悩まされているので生活に苦労することはなかった。もちろん電気ストーブや暖房設備、暖炉やヒーターなど、文明の利器とも言うべき設備がこの町にはあるが、人間はみんなこたつに入る欲望を捨てられない愚かさを本能的に兼ね備えているのだろう。  歴史的な寒波が過ぎ去った夏のある日、私はこたつに入りながら森の妖精と木材の交渉をしていた。地上の大部分を占めている森や林は妖精たちに管理されており、彼らに無断でそれらに手を加えてしまえば妖精たちに何をされるか分からないからだ。私は白樺の木材が欲しかったので近くにある白樺の森の妖精に挨拶に伺った。妖精の家はすぐに見つかった。大きな鎌倉ともいうべきような真っ白でドーム型のその家は、雪でできているように見えるほど白く、夏の燦爛とした太陽の光をあらゆる角度に反射していた。
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