朔太郎

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大晦日。 居間は立ち込める湯気や美味しそうな匂いで溢れていた。 こたつの上には鍋やお刺身、焼き鳥などが綺麗に一人前並んでいる。 普段はあまり飲まないご主人も、今日ばかりはしっかりとお酒もセットされている。 「あー、大晦日は一人でゆっくり。やっぱり、これが気持ちいいなぁ。」 いつものゴハンより豪勢な缶詰が皿に開けられて用意されていることが、ワシにとっても気分が良い。 そして、プラスして置かれている蒸したササミが一番の大好物だった。 缶ビールを飲みながらご機嫌なご主人に感謝しながら、ワシも一年を締め括ろうとしている。 テレビを見ながら食事とお酒に夢中になるご主人を邪魔しないよう、ゴハンを食べた後はこたつの中へと潜り込んでいく。 満腹感の中こたつから顔だけを出した状態で寝ていたが、しばらくしてトイレに行きたくなったのでノソノソと体を出した。 縁側の端にある、ワシのトイレスペースまで歩いているといつにも増して空気の冷たさを感じた。 毛皮と脂肪で守られているワシにも、毎年何度か感じるこの刺さるような冷気。 所定の位置で用を足して居間へと戻る。
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