温い風吹く午後

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「そっか、大変だね」 そうとしか言えなかった。彼女に何か言葉を投げかけたいのだが、なんて言ったらいいか分からない。 そんな真剣な話をしている中、注文したドリンクが来た。メロンソーダの上にホイップクリームがかかっており、そこに可愛らしいウサギがチョコでペイントされている。メイドさんが手でハートの形を作り、ある呪文を唱えた。 「ぽよよん、ぽよよん、美味しくなーれ!」 「美味しくなーれ!」 要もメイドさんに習って、同じような言葉を言った。僕は一緒に参加なんてする気も起きず、呆然と見ていることしかできなかった。 仕事を終えると、メイドさんは厨房の奥へと戻っていた。要は、美味しい呪文を唱えたメロンソーダをスプーンでクリームを掬う。 「んー、甘くて美味しい。静騎も食べようよ」 「あ、う、うん」 さっきまでの緊張した空気とは一変して、目の前の甘いものを美味しそうに頬張る要。僕も少しずつ食べてみるが、甘すぎて、次から次へと進んで食べることはできない。 ふと要の方を覗いてみると、彼女はスプーンを動かす手を休めてこちらと目が合った。ふいっと顔を背けられ、メイドさんにまた何やら注文をしだした。それを終えると、一つ咳ばらいをしてから、メロンソーダ飲んで口を潤した。 「静騎とは、いいライバルみたいな存在だなって思ってた。体育祭で競争したり、テストの点数を競ったり、そんな関係で最初は満足していたんだ。でも、静騎が、白撞さんと一緒にいる姿を見て、俺様も、あんな風に一緒に静騎と仲良くしたいなあって思い始めててそれで……」 「要……」 荊羅との関係は、”仲の良い友達”という言葉で表すとは少し違う。現実でも前世でも、僕と荊羅の関係は、友達よりももっと深い縛られた関係である。そんなふうになりたいと言われても、要と僕とは高校に入ってから知り合ったし、彼女は前世など知らない普通の女の子だ。 「静騎、留学行っても、俺様のこと忘れないでね。たまに手紙を書くからさ、返事ちょうだいね」 「……うん」 要が残りのメロンソーダを飲み干すと、そこへメイドさんが新たに注文したメニューを持ってきた。それは、大きなショートケーキのホールだった。 「俺様の門出を祝って、一緒に食べてよ」 「う、わ、わかった」 全て食べきれるか分からないが、要がしたいと思ったことを一緒に成し遂げようと思った。
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