薔薇に埋められた記憶の欠片

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アネモネが寒くなって来たと言って、屋敷へと戻った後すぐに女王様が早くも見つかった。 傍で先ほどの出来事を見てたようで、チラチラと女王様がこちらを見てくる。そして、何かを決心したのか女王様は、すうっと息を大きく吸い込んだ。 「――……か」 「え?」 「アリスの馬鹿。アネモネのいう事聞いてあげればいいじゃない」 「え、や、だって、女王様を見つけるのが先だって思って」 「アネモネのところ行ってくる」 「あ、ちょっと」 女王様は言いたいことだけ言って、僕に背を向けて、屋敷に向かって走り出してしまった。何がしたいのか分からない。 もとはと言えば、女王様が薔薇園に隠れたから、はやく見つけ出さなきゃいけないと思って行動していたのに、本人はそんなのどうとも思わず、アネモネの下に行ってしまった。僕は置いてけぼりを食らってしまい、薔薇園にぽつんと取り残された。 数分後、屋敷に戻ると、なにやら落ち着きがないメイドが2人居た。 どうしたのか、と尋ねると、2人はお互いの顔を見つめ合ってから、僕に話してくれた。 「……実はディーテ様とアネモネ様が喧嘩して――」 「……え?」 聞き間違いではないのかと思った。姉妹のように仲の良い二人が、喧嘩なんて起こすなんて初めて聞いた。 僕は女王様の部屋へと急いだ。 彼女の自室の前に来ると、泣き声が聞こえてくる。 「女王様、どうしたんですか?」 「――ごめん、今は独りに、して」 「……女王様」 「いいから、あんたはアネモネでも見て来て」 「ですが……」 「お願い、これは命令よ、”アリス”」 それ以来、僕が声を掛けても、部屋からは音沙汰がなかった。 女王様はずるい。何かにつけて命令を下せば、僕を遠ざけたり近づけたりと自由自在に動かすことができる。僕は、アネモネがいる客室へと向かった。 「アネモネ」 「……カトレヤ」 「何があったんだい?」 「とりあえず、中に入って喋りましょう」 「うん」 アネモネがベッドの上に座ったのを確認し、僕はその傍に立った。
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