薔薇に埋められた記憶の欠片

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「私が悪いの。ディーテが心優しく、カトレヤとお茶をしないって誘ってくれたけれど、私が思いっきり断ったから」 「女王様は、アネモネの気持ちを知って……」 「うん。色々と手を貸してくれたけれど、あの子、結局、自分のモノに手を出されるのは嫌な子だってことは分かったから。もういいよ。ありがとう。私よりディーテの傍に行ってあげて」 「でもこれは女王様の??」 「また、命令?あのさ、カトレヤは、自分で動いたりしないの?」 「それは……」 「あの子のお人形のままでいいの?」 アネモネにそう言われて、僕は自分の手のひらを見つめてみた。今までずっと彼女の命令に縛られて生きてきたから、”自分”がどうあるのかよく分からない。僕はこれまでも、これからも女王様の”アリス(人形)”であるのは間違いなく、僕には女王様しかいないということは分かっていた。 アネモネが僕のことを可哀想な目でみる。ベッドから立ち上がって、僕を抱きしめる。 「カトレヤはカトレヤなんだから、自分で動いていいの。貴方も素直に生きてみなきゃ」 「……アネモネ」 「ね、命令なんて、たまに無視してみればいいじゃない?」 「それは……」 そんなこと一度もしたことがなくて怖かった。 アネモネがぎゅっと僕の両手を握りしめて、祈るように目を閉じる。 「カトレヤ、大丈夫だから」 「……ありがとう」 「あのね、カトレヤ、ディーテの命令じゃなくて、私の”お願い”を聞いてもらってもいい?」 「ん?なんだい?」 「お願い、ちょっと屈んで」 「え」 「いいから、お願い」 「んー、わかったよ」 僕は身を屈み、アネモネと距離を縮める。 アネモネがちょっと背伸びをして、僕のおでこにそっと触れるだけのキスをした。 「えへへ。カトレヤ、頑張ってねのおまじない」 「うん、ありがとう」 照れたように微笑むアネモネに、僕の心は勇気づけられた。 そんな僕らの姿を見ていた陰がいるなんて思いもよらず、僕とアネモネはその後も、美味しい紅茶を淹れながら、女王様の話で盛り上がった。
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