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飛鳥が僕の母親と話がしたいということもあり、リビングで、荊羅と別々のソファーに座り、待ってもらうことにした。キッチンにいる母親を呼び、再び戻って来る頃には、二人の仲が更に険悪な感じになっていたので、触れないことにした。
「あら、飛鳥ちゃん、どうしたの?」
「前にばあちゃんの煮物のレシピが知りたいと言っていたから、作ってきました」
「まあ、こんなにたくさんも!しかもイラストつきで」
「絵が描くの好きなんです」
「これで、頑張って作ってみるわ。ありがとう。今度試食しに来てね」
「はい、楽しみにしています」
飛鳥が人が変わったみたいに僕の母親と会話するから、まるで飛鳥ではない別人を見ているみたいだ。荊羅も学校での飛鳥を見ていて知っているから、こんな優しくおっとりとした彼女を見て驚いている。
飛鳥は、僕の母親に煮物とレシピの入った紙袋を渡すと、そそくさと帰ろうとしていた。
「もう帰るの?」
「はい、ばあちゃん一人だから、心配で」
「そう、おばあさんに、ありがとうって伝えておいて」
「はい。お邪魔しました」
「ちょっと、私はまだ、静騎に用が」
「今は夕飯時だって分かっているでしょう?お母さんのご飯作るの邪魔になるの分からない?」
「うっ……」
飛鳥は荊羅を引き連れて帰って行った。飛鳥が荊羅を連れて行ってくれたおかげで、僕はこれ以上怒られずに済んでよかった。僕は、夕飯を食べた後、自室に入るなり、ベットに飛び込んだ。
そのまま僕の意識は夢の中に引きずり込まれていった。
「――ス! アリス!」
女王様に呼ばれた声がした。目を開けてみると、目の前に荊羅否、ディーテ様がいた。
ぼんやりする思考に呼ばれたことについていけず、また女王様にきつく大声で呼ばれる。
「アリス!」
「は、はいっ」
呆けていた僕を叱咤するように、顔をぺしりと叩かれる。
女王様は眉間に皺を寄せて、僕を睨んだ。
「それで、私の話をちゃんと聞いていたかしら」
「……い、いえ」
「だから私、婚約したの」
「……誰、とですか?」
「アドニス様」
アネモネの兄にあたるアドニス皇子は、赤い三つ編みが綺麗で、美青年で、誰にでも優しいお方と聞いている。
彼はディーテ様に好きだとなんどもアプローチしているが、ディーテ様からは振られっぱなしであった。しかし、そんな二人がまさか婚約するだなんて、彼女の冗談に違いない。
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