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「冗談でしょう?女王様」
「あら、私冗談が嫌いなの知ってるでしょう」
女王様は、何よりも嘘を吐かれたり、はぐらかしたり、真実を偽ることは、とても嫌いな人だった。
「……そうですよね」
彼女を見ていられなくて俯くと、だんだんと視界が歪んでいく。涙が出そうで仕方が無い。自分のご主人様が誰かのモノになるなんて、とてもじゃないが耐えられない。
「あ、僕、仕事をして来ますね」
「ーーアリス、」
僕は彼女に背を向けて、彼女の部屋から出ようとした。
彼女が別れ際に僕のことを呼び止めようとしたが、僕は聞かないことにして、走って逃げた。
乱れる心を鎮めるために、屋敷の外へと出た。風が強く、薔薇園の薔薇が舞い散る。まるで、嵐でも起こるような風の強さに、僕は身を震わせ、薔薇園の先にある別館を目指した。
***
その後の僕らの仲はぎくしゃくとした感じだった。
僕から話かけようとしても、女王様がいかにも僕を避けている。
「どうしたのかしら。カトレヤ様とディーテ様……」
「ぎくしゃくしていらっしゃるわ」
「今まであんなことなかったのに――」
メイド達の間で話題にもなっている僕らの関係は、修復することなく、初めて会った時以上に会話もなく、目も合わすこともなくなった。
その噂を耳にすると、その場に居ても立っても居られなくなり、急いで自室へと戻った。
「……はぁ」
自室に戻るなり、溜め息を吐いてしまう。
どうせなら早くこんな他人行儀な関係は女仲を直りして、いつものようにこき使われる配下へと戻ってしまいたいけど、彼女を目の前にすると、僕も何を話したらいいのか分からなくなる。
ネクタイを緩め、僕はベットに体を沈める。涙が出そうな目を堪え、腕で目元を隠した。すうっと息が抜けるように、前世の僕は眠りについたのか現実へと戻ってきた。
目が覚めた僕にはその後どうなったか分かりかねない。といってもその後何があったのか忘れているようで、靄がかかったみたいに、前世の記憶が思い出せない。
最近、感づいている事がある。あれだけ鮮明に覚えていたはずの前世の記憶が、18歳を迎えるに連れて薄れていっている。
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