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「なんで、荊羅がそんな顔をしているの?君が何かしたんじゃないの?」
「ちょっと静騎、やめてよ」
「だって、荊羅が、利渕さんと一緒にいて、そんな顔をするから」
「こ、これは、この人とは関係なくて……」
「嘘だ!だって、君ら一緒に帰ってきたし、何かあったと思って当然じゃない?」
「それは……」
口ごもる荊羅に僕はカッとなった。絶対に何かあったに違いない。
僕は利渕さんの胸倉を持ち上げ、顔を引き寄せる。しかし、利渕さんは怖がるどころか何ともないと言ったように涼し気な顔でいるから、余計に僕の怒りは爆発する。
「荊羅を悲しませるな!あんた、前世でも女王様に何かしたんじゃないの?婚約者だったはずなのに、女王様は幸せになれるはずだったのに、どうして、荊羅は、そうもあんたといて辛そうな顔をするんだよ」
「”それ”は私ではないよ」
「はあ?だって、あんた以外に荊羅がこんな顔するわけないじゃんか」
「……やはり、記憶が忘れかけているみたいだね」
「!!」
どうして利渕さんが、僕が前世の記憶を忘れかけていることを知っているんだ。
利渕さんを掴んでいた手に力が無くなると、今度は利渕さんがこちらの胸倉をつかんできた。額と額がくっつきそうなくらいに近寄り、利渕さんの目がスッと細くなる。
「いい気になるなよ、人形の分際で。彼女を苦しめているのは、自分だってこと考えたことはあるかい?」
「もうやめてください。アドニス様も、アリスも」
僕らの間に荊羅が立ち入る。
利渕さんは、素直に手を放し、僕たちと距離を取る。
「荊羅、今日見たことは、また後日に確認しに行こう」
「……わかったわ」
「その時は、その人形も一緒で構わないから」
「なっ、さっきから人形、人形って……」
「本当のことだろう。人形のように、ディーテに忠実で、命令を何でも聞く下僕なんだから」
「それ以上はやめて!アリスを卑下しないで!」
「……ごめん。ディーテ、言い過ぎた」
利渕さんが荊羅の手を取り、ちゅっと手の甲に軽くキスをする。
僕が唖然としているうちに、利渕さんは荊羅の髪に触れ、頭を撫でた。
「じゃ、また連絡をして。待っている」
「はい、わかりました」
片手をひらりと振り、利渕さんは夕陽に向かって帰って行った。
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