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地平線に広がる草原に幼い僕は寝転んでいた。待っていてもこない相手に、腹を立たせながら。
「カトレヤー」
体を起こし、声がした方に目を向ける。両手一杯の花を持って、走ってくる僕の姉。僕の隣まで走ってくると両手一杯の花を僕に授けた。僕の手でも一杯になるほどのたくさんの花。
「カトレヤ、私たち離れ離れになるんだって」
「……なんで? 僕、レリア姉さんと離れたくないよっ!」
「仕方ないことだから」
「い、嫌だ! 絶対に嫌だ!」
姉からの突然の別れ話に僕は衝撃を受けた。
ずっと一緒だった。この後も一緒のはずの僕達は引き裂かれるなんて、子どもの僕では考えたくない事実であった。それなのに姉は冷静に、今後について語った。
「カトレヤは、薔薇園の方に引き取られるの。いい?おとなしくしてたら迎えに来るから」
「…………レリア姉さん、は?」
「私は、友人の所へ行くわ」
友人なんて初めて聞いた。姉は極力自分の事を他人に話したりしないので、姉の知人等知る由も無い。
そのことに吃驚していると、姉の手が僕の頭を優しく撫でた。
「親がいなくなってからずっと二人でやってきたけど、もう限界なの。ごめんね」
寂しく微笑んだ姉。姉も別れるのが嫌なんだ。
弱みなど全く見せない強い姉に僕は憧れていた。見たことも無い姉の表情に戸惑う僕を沢山の花ごと抱きしめる。
「また会おうね」
姉の手が淡く光り、僕の記憶がまるで、封印されていくかのように途切れていった。
姉から開放された後、手に持っていた花が一気に空を舞った。次に目をした時、姉の姿は其処にはなかった。
***
飛鳥から姉弟の話を聞き、忘れていた記憶が呼び覚ます。
「それで、姉さんは、どうしてアドニス様のところに……」
「母親の知り合いにアドニス様の母親がいて、本当は私たち二人とも引き取るはずだったのにその前に病気で亡くなられたの。で、アドニス様の父親が女ったらしのひどい奴でね、私は引き取ってもらえるけど、カトレヤは引き取ってもらえなくなって、だから母親の叔母さんが薔薇園に勤めていたから、カトレヤはそっちに引き取ってもらうことになったの」
飛鳥が淡々と話す。飛鳥の話が終わるのを待っていたかのように穂子さんが席を立った。
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