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要がいる放送室の前に来た。
未だに要が僕を呼ぶ声が校内に響き、周りの生徒たちから注目が僕に集まる。毎度のことだけれど、こういう注目の的になることは慣れない。
ドアノブに手を掛け、ゆっくりドアを開ける。誰かが入ってきたことに気づいた要は、放送を止めて此方に目を向けた。目がキラキラと輝き、やっと獲物が来たことに喜々して、身体がうずうずと動き出す。
「し、ず、きー!」
「うわっ、」
要が犬みたいに僕に飛びついてきた。尻尾を振っている犬の光景が見える。
「会いたかったよー。俺の静騎ー!」
「僕は君のモノじゃないよ」
「ぶー」
頬を膨らませ、少し拗ねたかと思いきや、急に顔を俯かせ、静かになった要。さっきまでの騒がしさとは一変して、しおらしく耳を垂らす犬がいるみたいで、僕はどうしたらいいか分からないでいた。
「ど、どうしたの?」
「……い、いや何でもないよ!」
要は笑顔でそう返したが、何処か無理矢理作っているような気がする。要にそんな顔は似合わない。無邪気な笑顔の方が合ってる。
ぴんと跳ねた天然パーマの髪を指にくるくる巻いて、僕と目を合わせる度に、笑顔を貼り付けて何でもないように装う。そんな顔をしても、彼女が何かを内に隠していることくらいは僕にだって分かる。何かを言いたそうにもごもごと口を動かしては、やっぱり言えないといった感じに唇をぎゅっと結ぶ。
「……はあ、要、今日だけ君のおねだり聞いてあげるよ」
そんな彼女を放っておけない僕は、究極なご褒美を彼女に与えた。要は僕の言葉を聞くと、照れたようにはにかむ。
「へへ、じゃあさ俺様と今日デートして!」
「デート?」
深く頷くと、もう僕とのデートプランを考えている要は、ぶつぶつと独り言を喋り出す。
「よし。行こう!」
「……へ?」
何かしたいことが決まったのか、要は腕を引いて放送室を後にする。
まだ今は昼休みであるし、これから授業だってある。しかし、もうどこかへ行こうとする彼女を止めることは誰にもできず、引きずられるような形で僕は要の後に着いて行く。
要は、新しい玩具を買ってもらえる子供のように興奮している。そんな真っ直ぐな彼女から逃れようとしてみたが、要は僕の腕を強く掴み、づかづかと歩く。
途中の廊下で僕は荊羅とすれ違った。僕はすれ違う荊羅に対して、申し訳ない気持ちになり、「ごめん」と両手を合わせた。
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