温い風吹く午後

3/5
前へ
/43ページ
次へ
要がいる放送室の前に来た。 未だに要が僕を呼ぶ声が校内に響き、周りの生徒たちから注目が僕に集まる。毎度のことだけれど、こういう注目の的になることは慣れない。 ドアノブに手を掛け、ゆっくりドアを開ける。誰かが入ってきたことに気づいた要は、放送を止めて此方に目を向けた。目がキラキラと輝き、やっと獲物が来たことに喜々して、身体がうずうずと動き出す。 「し、ず、きー!」 「うわっ、」 要が犬みたいに僕に飛びついてきた。尻尾を振っている犬の光景が見える。 「会いたかったよー。俺の静騎ー!」 「僕は君のモノじゃないよ」 「ぶー」 頬を膨らませ、少し拗ねたかと思いきや、急に顔を俯かせ、静かになった要。さっきまでの騒がしさとは一変して、しおらしく耳を垂らす犬がいるみたいで、僕はどうしたらいいか分からないでいた。 「ど、どうしたの?」 「……い、いや何でもないよ!」 要は笑顔でそう返したが、何処か無理矢理作っているような気がする。要にそんな顔は似合わない。無邪気な笑顔の方が合ってる。 ぴんと跳ねた天然パーマの髪を指にくるくる巻いて、僕と目を合わせる度に、笑顔を貼り付けて何でもないように装う。そんな顔をしても、彼女が何かを内に隠していることくらいは僕にだって分かる。何かを言いたそうにもごもごと口を動かしては、やっぱり言えないといった感じに唇をぎゅっと結ぶ。 「……はあ、要、今日だけ君のおねだり聞いてあげるよ」 そんな彼女を放っておけない僕は、究極なご褒美を彼女に与えた。要は僕の言葉を聞くと、照れたようにはにかむ。 「へへ、じゃあさ俺様と今日デートして!」 「デート?」 深く頷くと、もう僕とのデートプランを考えている要は、ぶつぶつと独り言を喋り出す。 「よし。行こう!」 「……へ?」 何かしたいことが決まったのか、要は腕を引いて放送室を後にする。 まだ今は昼休みであるし、これから授業だってある。しかし、もうどこかへ行こうとする彼女を止めることは誰にもできず、引きずられるような形で僕は要の後に着いて行く。 要は、新しい玩具を買ってもらえる子供のように興奮している。そんな真っ直ぐな彼女から逃れようとしてみたが、要は僕の腕を強く掴み、づかづかと歩く。 途中の廊下で僕は荊羅とすれ違った。僕はすれ違う荊羅に対して、申し訳ない気持ちになり、「ごめん」と両手を合わせた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加