温い風吹く午後

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要に連れてこられた場所はとても個性的な所だった。どうしてこの場所なのかよくわからないけれど、僕はまじまじとその店を見つめる。 呆然と店を眺める僕に、要に強く引っ張られた。 「何やってんの?いくよ」 「え、あ……うん」 普通の女子生徒ならば、カラオケやファーストフード店などに出かけることが鉄板だろう。僕も荊羅と何度かハンバーガーのお店やファミレスとかで、放課後に食べに行ったりしたことがある。 しかし、要は一味違った。彼女は、一般女性とはかなりずれていることを忘れていた。だって此処は”メイド喫茶”である。 「お帰りなさいませ。お嬢様」 「ただいまなりー」 メイドさんと簡単に挨拶を済ませた彼女は、奥の席に座る。まるでそこが特等席だというかのように、ぽつりとそこの席だけ空いていた。僕も少し遅れてから要が座った席の前に座る。 「あのさ、何で此処?」 「んーなんとなく」 僕の質問に、要はメニュー表を見ながら応えた。 僕は恥ずかしいのに、要は清清しい顔をしている。もしかして此処の常連さんなのだろうか。あまりにも要が堂々としすぎて、逆に僕は大きな体をどんどん縮こませる。 「ご注文は何になさいますか?」 「じゃあーいつもの! 彼女にも同じので!」 やはり要は、常連さんのようだ。 メイドさんに”いつもの”という言葉で通じたのか、メイドさんは目をぱしぱしと瞬かせてから、「かしこまりました」と一礼して、去っていく。 僕は、少し喉が渇いたので、メイドさんが持ってきたお水で口を潤わそうする。 「――あのさ、静騎は……海外って知ってる?」 「へっ」 唐突の質問に僕は口に含んだ水を思わず溢してしまう。 ”海外”と云われても、ずっと生まれてこの方この日本から出たことがない。あるとすれば、それは前世の薔薇園のときの記憶くらいだった。 「実は、俺様さ、海外留学が決まってるんだよね」 「えっ」 「長くて一年以上。なんかばあちゃんが勝手に俺様を留学させようと動いているらしいんだ。俺としては行きたくないんだけれど、ばあちゃんにはだーれも口答えできなくってね。もう今年の夏休みには行く予定みたいなんだ」 要と目が合うと、寂しそうに微笑んだ。僕はどう答えてあげたらいいか分からないでいた。 「頑張ってね」という応援はちょっと違うし、「寂しいね」という言葉も何だか素直に僕の中から出てはこない。
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