Ⅲ  神戸生まれ

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故郷から神戸に戻ったという連絡が 下宿組の友人たちから次々とくることが 千香子に新学期の始まりを実感させた。 それぞれ故郷の言葉なまりに戻ってしまった友人たちは 親元から通学しているものにとってはほほえましくもあり、 また、「帰省」というものが本人たちの気づかない程度に 千香子にささやかな嫉妬心をもたらすこともあった。 「神戸に家があるなんて羨ましい」 たいていの人はそう言った。 確かにここは好きだ。でも・・・ 生まれた時からずっと同じ場所にいるということを心の隅で恥じている。 理解ある親、愛すべき兄弟、世話好きの親戚。 そういう肉親があって当然の暮らしをしている自分自身を いつかどこかで壊してみたい。 依頼心の強い自分には出来もしないことと分かっていても 夢見るようにぼんやりと考えることもあった。 サークルの仲間たちのほとんどは下宿生活を送っていた。 ぎりぎりまで食費を削って遊びや酒にあてながら、 その貧乏生活をとことん楽しんでいるようで、それもまた千香子にはうらやましかった。 ただ、やはり英明はみんなの中でひとり飄々としていて生活感がなかった。 あなたも親元から通っているのかと聞いてみたいと思ったが ただでさえ近寄りがたい雰囲気の英明にそのような質問を わざわざすることは憚られたし、人づてに聞くのはなおさらだった。 しかし意外と早くその答えは明らかになった。
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