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遭難
僕は歩く。
ただひたすら白い世界。
サクサクサク。まだ誰にも踏み固められていないやわらかな雪を踏み鳴らし、強い風に頬を叩かれながら、向かうあてもないまま歩いている。
彼女が一週間前、この山で遭難した。
大学のサークルでスキー合宿に出掛けたまま今も行方はわからない。
最初は捜索隊に任せ、いい知らせが来るのを待っていた。
だけど僕の頭からあの言葉が離れない。
「ねぇ、海人。遅くなったら迎えに来て?」
あのとき僕は、彼女の言葉を適当に受け流してしまった。何故ならすぐに帰ってくると信じて疑わなかったからだ。
「だって暗いと怖いじゃない? お願いよ。必ず迎えに来てね」
彼女はどんな顔をしてその言葉を言ったのだろう?
暗いところを心底怖がるような顔だろうか――?
想像すると堪らない気持ちになり、僕は夢中で山を登った。
しかし僕は山に慣れていない。慣れている彼女でさえ遭難してしまったのだ。僕が遭難したのはある意味当然と言えるかもしれない。
しかしこんなにも激しく吹雪いてくるなんて想定外だ。
だいぶ前に日は暮れて、前後左右の感覚すらわからない。
もうダメかもしれない――。
そう思っていた矢先。
遠くに小さな灯りが見えた。
――誰かいる!!
そう確信した僕はその灯りに向かって歩き始めた。
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