雪溶けの朝にまた会おう

女性

　すると女性はなぐさめるようにそっと僕を抱き締めた。
「つらいよね。わかるよ。私も寂しい」
「寂しい？ どうして？」
　女性は僕の体を離すと寂しげに笑った。
「このハウスの管理をね、好きな人から任されてるの」
「それはもしかして、むやみやたらに人をあげちゃダメって言った人？」
　そう、と答えた女性はどこかはにかんだ様子で、本当にその人が好きなのだろうことが伝わった。
「大好きなの。彼がいるから私が存在できる。……でもね、なかなか会えないんだ」
「山で生活してる人じゃないんだ？」
「そう。彼の言いつけを守ると、私はここで一人きり。……だからときどき言いつけを破りたくなる。あなたを家に入れたのもそう。寂しいから。……あの人にダメな子だねって怒られたいんだ。……まるで子どもね」
　女性は今まさに叱られているかのように泣き出しそうな顔で笑う。
「いいんじゃないかな？」
「えっ？」
「一人が寂しいのも、好きな人に会いたいと思うのも当然の気持ちだ」
　僕は彼女を思い浮かべる。今すぐにでも彼女に会いたい。その一心でここまで来た。遭難してしまったけれど後悔はない。
「君も彼に会いに行けばいいよ。寂しかった、会いたかったって言えば、きっと彼だって許してくれる」
　彼女を見つけたら――彼女は僕を許してくれるだろうか？
「遅いよ、もう。待ちくたびれたじゃない。怖かったんだから」
　きっと彼女はそう言って怒りながらも僕を許してくれるに違いない。
　――ただの想像にじわりと心が温まる。
　すると女性は「……そうだよね」とつぶやいた。
「ありがとう。おかげで気持ちが固まった」