雪の夜の死体

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 まずは、死体をもっと観察しよう。 上半身は雪の上だが、なぜか膝下だけ雪に埋まっている。そのせいで、やたらと短足に見えた。 広い背中と肩幅。おそらく若い男性だろう。同い年くらいかもしれない。先ほど捲ったダッフルコートの首元から、学ランの詰襟が覗いていた。うちの学校はブレザーだから、同級生ではない。それだけで、少しホッとした。 頭部に傷はない。背中に刺し傷のようなものもない。出血の痕も見当たらない。綺麗な死体だった。綺麗じゃなかったら、こうして間近で観察なんてとてもできないだろう。 自殺なのか他殺なのか、死体からは判断できない。警察ならわかるのかもしれないが、少なくとも素人の玲香には、外傷がない、ということくらいしかわからなかった。  次は思い切って触ってみよう。指先で肩のあたりをつついてみる。そしてしだいに大胆に、手のひらで撫でるようにして、背中の感触を確かめる。不思議な昂揚感があった。死体とはいえ元は人間なのだから、敬意を払うべきなのは百も承知だが、こんなに異性の身体に触れたのは初めてだった。 贅肉のない、硬い背中を、ダッフルコート越しに何度も撫で回す。運動系の部活をやっていそうな引き締まった身体だ。首に日焼け跡はなかったから、屋内の競技かもしれない。バスケ?バレー?それとも卓球? ふと、憧れのバスケ部の先輩を思い出す。すね毛が全然生えていない脹脛(ふくらはぎ)の、動くたびに脈打つ筋肉を、ずっと触ってみたかった。  気がつくと玲香は、雪に埋まっていたはずの死体の脹脛を撫でていた。たまらずズボンの裾をずり上げると、血の気の失せた、真っ白な細長い脚が露わになる。濡れた産毛が皮膚に張り付いていた。筋肉の盛り上がりを、指でそっとなぞる。見れば見るほど、バスケ部の先輩の脚によく似ていた。 裾を太ももまで捲ったところで、ようやく罪悪感のようなものが芽生えてきた。しかし、ここで終わる玲香ではない。裾を直し、今度は臀部を(まさぐ)った。まな板のようにぺたんこの尻を、ズボン越しに両手で揉みしだく。意外と柔らかい。 異性の身体を好きなだけ弄くり回せる機会など、そうあるものではない。が、はっと我にかえる。これは死体だ。いくらなんでもやりすぎだろう。落ち着け私。
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