第5章 -落とし穴-

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「ここまで聞いてしまったら、もう引き返せないよ。俊介君の覚悟も分かったし、円華の気持ちも固まったみたいだ。麻野井……?」 名前を思い出そうとして、さっきから話題に出てきたのが名字ばかりだったことに気づく。 「優衣香」 「優衣香ちゃんか……。すぐに手続きをする。咲楽の診断書を書いて、役所に提出して…名前もできれば“優衣香”のままにしてあげたいな」 「本当にいいの?」 もう一度確認のつもりで問いかけると、英彦はにっこり笑った。 「円華の顔…見たか?あんな顔で笑ったの、久しぶりに見たよ。咲楽がいなくなってから、何度も入退院を繰り返してたしな。彼女がいることで円華が笑顔になる。咲楽の失踪の手がかりも出てくるかもしれない。こんないい話はないよ」 これから犯罪に手を染めると言うのに、英彦は晴れやかな表情でそう言った。 他の計画なんて考えてなかった。 だから、二人から断られたら優衣香を守る方法は、俊介自身が優衣香を誘拐するしかなかった。 それも到底成功するとは思えない。
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