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帰宅ラッシュにはまだ早い時間の電車には、高校生と老人しか乗車していなかった。
数人の女子高生が、スマホを見ながら騒いでいる。
今年初の寒波到来で昼頃から雪になり、車窓からは外が白く霞んで見えた。
こんこんと降る雪に、このまま続けば大雪警報が出るに違いないとそこにいる誰もが考えていた。
社内で、一斉にスマホの通知音が鳴り響く。
騒いでいた女子高生の一人が、
「えっ!KO/TA/Ⅱが...。」と驚きの声を上げる。
ニュース速報!
日本を代表するアイドルグループ「KO/TA/Ⅱ」が、今年3月31日の東京ドームライブを最後に引退することがわかった。
先程所属事務所より引退する旨のFAXが関係各所に送られ、そこには後日行われる記者会見の場で、引退を決断した経緯についてメンバー自身から直接発表するとあった。
「KO/TA/Ⅱ」は、「Heart song, Heart performance 」をモットーに、日本レコード大賞、日本有線大賞の授賞回数歴代1位、紅白歌合戦出場回数も20回以上を数える。
メンバーそれぞれも、ドラマ、バラエティー、映画等多方面で活躍している。
関係者によると、メンバーが肉体的衰えから自分達のパフォーマンスに満足できないと数ヵ月前から話していたと言い、それが引退へと繋がったのではないかと推測される。
いずれにせよ、記者会見でメンバーが何を話すのか注目される。
声を上げた女子高生の隣の、眼鏡をかけた老婦人が、彼女のスマホを覗いていた。
「お婆ちゃん、KO/TA/Ⅱ知ってるの?」
「ずいぶん昔だけどね、追っかけしてた事あるから。」
「えっー、追っかけって凄いじゃん!」
「KO/TA/Ⅱの歌はアルバムにいい歌が多いのよ。今日みたいな雪の日は、Snowman がお薦めなの。聴いてみて。」
「調べてみるよ...、これかな?」
「うん、それそれ。心に沁みるのよ、歌詞が...。」
数分後、女子高生のグループが停車駅で降りた。
皆振り返って、老婦人に手を振っている。
ドアが閉まり、電車は静かに走り出す。
そのホームの片隅で、誰かが作った雪だるまが微笑んでいた。
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